「ここで逃したら大変なことになる」
磯氏は「撃ちやすい場所を自分で探してもいいですか」と申し出ると、しばらくの間現場周辺をくまなくチェックし、民家の裏に建つアパートの駐車場から、フェンス越しに狙うことにした。そこからも身体全体が見えたわけではない。だが、クマの胸にある「白い月の輪模様」は見えた。
「ここで逃したら大変なことになるという重圧もあったし、とにかく必死でした。恐怖心? それは全然なかったですね。警察の方も盾で守ってくれてたので」
距離は約5メートル。フェンスに銃を突っ込み、狙いを定めて撃った3発目は、クマの月の輪に命中した。5分ほどでクマは眠りに落ち、猟友会が用意した檻に収容された。時刻は6月9日15時45分。駆除されたクマはオスの成獣で、体長は推定で約1.4メートル、体重は80キロを超えていた。
このクマに揺れた4日間、宇都宮市で何が起きていたのか。撃つ瞬間、クマと目があった磯氏の胸に去来したもの、学校休校にまつわる行政の苦悩、駆除後に市役所や動物園にクレームが殺到したこと、そして、都市にクマが出没することがもはや異常事態ではなくなった理由など、伊藤氏による「ドキュメント熊襲来――宇都宮で何が」は、7月10日発売の「文藝春秋」8月号および、電子版「文藝春秋PLUS」(7月9日先行公開)に掲載されている。

