気が早いにもほどがある、と思った。
この夏、甲子園で取材中の私の元に、旧知の雑誌編集者からラインが届いたのは、8月17日の夜だった。快進撃を続けていた秋田代表の「雑草軍団」、金足農業が3回戦で優勝候補の横浜相手に、8回裏の逆転3ランで5-4と劇的な勝利を飾った晩でもあった。
〈金足農業が優勝した場合、記事をご寄稿いただけますか〉
あまりにも現実味がなく、ひとまず〈もちろん、いいですよ〉と返事をしつつも、〈勝負はわからないですが、さすがにないと思います〉と付け加えざるを得なかった。
編集者からは〈もしものもしものもしもの時は……〉お願いしたいと返信があり、〈確率的にはそんなものだと思います〉と返した。
疲労を味方につけた吉田
金足農のエース・吉田輝星は3回戦を終えた時点で、疲労困憊に映った。
吉田は秋田大会5試合すべてを完投し、甲子園でも1回戦(8日、鹿児島実戦)で157球、2回戦(14日、大垣日大戦)で154球と、たった一人で投げ抜いていた。横浜戦は、中2日で164球を費やし、またしても完投。試合後、吉田は今大会初めて座ったまま取材を受けていた。
「中盤は疲れて集中力が切れてました。股関節が痛かったので、(5回終了時の)グラウンド整備中もマッサージを受けていました」
準々決勝は翌日に控えていた。
かりにそこを越えたとしても、その後は、1日休養日をはさんで、準決勝、決勝とやはり連戦になる。
トーナメントは「山」と呼ぶことがあるように、標高が高くなればなるほどあと一歩が過酷になる。金足農業は、まだ3回戦を突破しただけ。決勝までの試合数だけを見ればちょうど半分だが、残りの3試合の険しさは、相手のレベル、試合日程を考えたら、そこまでの3試合の比ではなかった。
ところが、である。