田舎町で小さな医院を営む実家を飛び出し、佳莉は台北で徳偉との結婚生活をはじめる。ところが、ふたりに襲いかかるのは住居問題や厳しい仕事、夫婦のコミュニケーション、知人たちとの人間関係というきわめて日常的な課題だ。ある場面で、佳莉はこう口にする。

映画『海辺の一日』 © 2010, 2024 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
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「私たちは勉強し、試験もすべて乗り越えた。だけど、人生の困難に立ち向かう術は学ばなかった。小説も映画も、ラストは二人が結婚してハッピーエンド。だけど、その続きは? 結末のあとを教わることもなく、学ぶ暇もなかった」

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人生の困難を乗り越えようとする女性の生

 若きヤンは、消えた夫をめぐるサスペンスを通して、佳莉という主人公のなかに流れる時間と記憶をじりじりと浮かび上がらせる。彼女には、夫について、周囲について、自分自身についてもわからないことがある。その欠落こそが人生の困難だ。

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 すなわちこの映画は、人生の困難をどうにか乗り越えようとする女性の生を、すこぶる自由に、瑞々しく、かつ緻密な語りで描いている。だからこの物語には――決してそれ自体は難解ではないものの――安易でわかりやすい結論は用意されていない。

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 都市における恋愛や労働、人間関係を通じて、既存の社会と資本主義を問い直す作劇は、『エドワード・ヤンの恋愛時代』や『カップルズ』といったその後の作品にも一貫する特徴だ。

 そればかりか、のちにヤンが描くことになるほろ苦い青春も、あまりに脆く信用ならないロマンスも、脳裏にはりつく記憶も、少年少女の成長も、親世代が築いてきた家族の価値観も、ぞっとするような暴力や死の気配も、この『海辺の一日』にすべて表れている。その手つきは今でもまったく古びていないどころか、むしろ、現代にも通じる人間社会の問題をあざやかにとらえている。

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 上映時間は167分で、エドワード・ヤン作品としては『牯嶺街少年殺人事件』の236分、『ヤンヤン 夏の想い出』の173分に次いで3番目に長い。これだけの尺を必要とした理由は(ほかの2作と同じく)映画を観ると一目瞭然だが、それにしても当時、新人監督のデビュー作にこの長尺が認められたことも異例だった。