話題作を出し続け、海外でも高く評価されている日本が誇る小説家、小川洋子さん。その執筆の原点は、ユダヤ人少女アンネ・フランクとの出会いでした。この度、アンネによる世界的名著の魅力に迫った『小川洋子が読みとく『アンネの日記』 NHK「100分de名著」ブックス編』の文庫化刊行を記念し、小川さんにお話を伺いました。(全5回の4回目)

『小川洋子が読みとく『アンネの日記』』(小川洋子著)

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「私は小説を書く以外に生きる方法がない人間」

――これまで小川さんは数多くの素晴らしい作品をご自身の筆で生み出してきました。また、日本のみならず海外の多くの人も小川さんの本を大好きで高く評価されています。素晴らしいことですね。

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小川 いやぁ本当に、私は小説を書く以外に生きる方法がない人間だから……。小説を書いて本の形になるというだけで、ありがたいですけどね。サイン会をすると、読者の方が来てくれて、感想や自分の置かれている立場と結び付けて語ってくれると、ひとりひとりの読者のところに、必要としてくれている人にちゃんと届いているなぁと感慨深いものがあります。まぁ、負け惜しみじゃなく、べつにベストセラーにならなくても私の本が本当に必要な人に届いて開いてくれればそれでいいなというふうに思わないと、バチが当たると思います。

――あのー、プロフィールを拝見しますと、大変高く評価されてこられて、ご受賞歴が素晴らしくて圧倒されるのですが……!

小川 いや、長くやっていれば……(笑)。

――そういうことではないと思うのですが……(笑)。数多の受賞については、嬉しく思っていらっしゃいますか?

小川 あの、賞っていうのは、むしろ編集者に喜んでもらえればいいかな、っていうぐらいで(笑)。なんていうかな、有頂天にならないようにむしろ気を付けてね。

小川洋子さん。 写真:鈴木七絵

 だけど、アンネ・フランクには言いたいですね。「あなたの本は、もう世界中で翻訳されているよって! こんなに何十年経っても、今こうやって愛読者が二人で語ることが尽きないぐらい語る、それだけの影響をあなたは与えましたよ。それだけのものをあなたは持っていたんですよ!」ということをね。伝わっているのかなぁ……うふふ。

――アンネがなんだか見守ってくれているような(笑)。

小川 ねぇ。(本書のビジュアルページを見ながら)写真でアンネの大きな瞳を見つめていると、そう思えてきますね。

 

――なぜか写真の説明に、「姉のマルゴは美人だけど妹のアンネはそうじゃない」というニュアンスで書かれてあることが多いんですよね。私はアンネも可愛いって思っているんですけれども(笑)。どういうことなんでしょう?

小川 だからね、それはアンネが可愛げのない子どもだったんじゃないかと思うんですよ。

――なるほど!

小川 顔かたちの問題じゃなくて、なんか生意気な口をきくとか、皮肉を言ったり鼻っ柱が強い、とかね。そういう可愛げがないというところにも私はすごく共感するんですよ!!(笑)

小川洋子さん。 写真:鈴木七絵

――その一方で、隠れ家の住人の支援者だったミープ・ヒースは「アンネはかわいすぎた」と言っています(『アンネ・フランクの記憶』より。小川洋子著、角川文庫)。

小川 ミープさんが最初にアンネと会ったとき、アンネは4歳。あまりの可愛さに魅入られたというようなことを言っていましたね。だから、ミープさんという方は、小さい子が持っている能力とか才能とか底知れないエネルギーみたいなものをパッとキャッチする力がある。1994年に私がオランダでミープさんにお会いした限りでは、なんの肩書もないような、名もなき一オランダ市民でした。でもね、人間が発揮できうる限りの力で、他者のためにとてつもない貢献をした人なんです。

 それはノーベル賞を受賞したり表彰されたり勲章をもらったりっていう事とは全く無関係なところで、しかし人間として本当に尊いことをなしとげた人。そういう尊敬すべき人である実物のミープさんにお会いできたっていうだけでも、もう本当にありがたかったですね。

――本当に、ご本人に直接会うことができて良かったです!

小川 (感無量な感じで)うーーん、間に合った!

ユネスコによって「世界でもっとも読まれた10冊のうちの1冊」と評価された世界の名著、『アンネの日記 増補新訂版』(アンネ・フランク著、深町眞理子訳、文春文庫)。