「経費で風俗店に行けて役得だ」――そんな世間のイメージとは裏腹に、現役税務署員の心は完全に「業務モード」だった。

 ターゲットは、売上除外が疑われるピンサロ店。同僚が拒否した覆面調査を引き受け、一通りサービスを受けた署員だったが、客数や料金システムに目を光らせる店内は緊張の連続で……。知られざる税務調査の裏側を、大蔵主税氏の新刊『税務署員うつうつ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。なお、登場人物・社名はすべて仮名である。(全3回の3回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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同僚が断ったのは…

 統括官に呼ばれたのは昼すぎのことだった。「ちょっといいか」と低い声で言い、会議室に招き入れられると、統括官はドアを閉めた。

「調査に協力してほしい。じつは岩園に振ったんだがな。あいつ、どうしても嫌だと言う。無理強いはできん。すまんが、大蔵、行ってくれんか」

 調査官の岩園さんは私の1つ上の先輩。生真面目で、統括官の依頼を断るような人ではない。何があったのか?

「調査対象はここだ」そう言って、統括官がメモを手渡す。

『△△市凸凹町1-3四方山ビル5階 抜きっこ俱楽部』

「ピンサロ店だ。客として店に行ってひと通りやったら支払って出る。それだけでいい」

 なるほど。覆面調査員として独身の若手に声をかけたものの、岩園さんは風俗店に行きたくなくて断ったのだ。見かけのとおり潔癖な人だ。

 だが、税務調査という仕事に、個人の好き嫌いを持ち込むことなどおかしな話ではないか。まあ、その点、私はピンサロにも何度か行った経験があり、抵抗感はない。仕事なのだから粛々と職務を遂行するだけだ。