OD(オーバードーズ)とリスカの切れない関係

 コロナ禍においてトー横に集まる子どもたちがトー横キッズと呼ばれるようになり、全国的に名が知れ渡ったが、そこは主として家出した女子中高生がたどり着く場所なのだ。そして、彼女たちの多くがシラフではなく、薬物を摂取しながら過ごしている。

 当時から歌舞伎町には、そこに入り込めばなんとかなる、この世のルールなんかどうでもいいという解放区的な雰囲気が満ちていた。魔窟というには明るすぎて自由な街だった。

 2024年の調査によれば、彼女たちのような10代の女性が用いる薬の約70%は市販薬である。それに処方薬(睡眠薬や抗不安薬)を足すと80%近いというから驚きだ。覚醒剤のような違法薬物を使用しているわけではない。この割合は、2014年と比べると5・2倍に増加している。

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 ドラッグストアの激増に伴い、コスメを買ったりお菓子を買ったりしながら、市販薬にアクセスするハードルが格段に下がった。市販薬は誰も制限できず、個数制限もそれほど効果があるわけではない。かえって制限されることで購買意欲が増す結果を生むという説もある。

 注意書きにある指示量より多めに飲むというオーバードーズ(OD)が、10代の子ども(主として女子)のあいだで広がっている。

 すでに知られていることだが、ODとリストカットは高い割合で併存している。ひとりで市販薬をODし、ひとりでリストカットするという女子もいるが、そのような空間(自室)を持たない場合もある。学校にも家にも居場所を失った少女たちが、仲間を見つけ、束の間の交流ができる場所として選ばれたのが新宿歌舞伎町のトー横なのだ。そこではODも容認されていて、ヘンなことではない。

 ODはリストカットへのハードルを下げる。クスリの効果で恐怖心も減り周囲の目が気にならなくなる。2014年の調査で、女子中高生の10%強がリスカを経験しているというデータがある。周囲からは、明るく楽し()に学校生活を送っているかに見える彼女たちの10人に1人は、人知れず手首を切っているということになる。

 リスカは自傷ともいわれ、しばしば止まらなくなる。繰り返すうちにどんどん傷が深くなり、傷跡も増えて自傷癖というアディクションへと変貌する。夏になって半袖姿になると、通勤電車のつり革につかまる人の左腕をそれとなく見てしまう。若いころのリスカの跡がうっすら残っている人は珍しくない。近年リスカの跡を目立たなくする専門のクリニックもできたという。

 手首や腕、腿、時には首を切るのが止まらないという女性たちに、カウンセリングの場で会ってきた。職場の空気感に耐えられなくなると、トイレに入って隠し持ったカッターでほんの少し手首を切る、それでやっと息がつけるようになるという20代の女性。毎日明るい顔をして優等生として高校生活を送りながら、夜になると自室で友達にもらった市販薬を飲み、腕を切る女子高生。

 切ることで一日が終われる、切ることでやっと自分が許せる気になる、切ってから2日か3日は安らかに眠れる、と語る彼女たちは、自分の身体を切ることで感情の調整を行っているのだ。苦しい感情が切断されることでふっと楽になる。これはどこかPCの強制終了に似ている。

溺れながら生きる 依存とケアのあいだで

信田 さよ子

文藝春秋

2026年7月29日 発売

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