安田 分かっていないと思いますね。松島氏には龍谷大学経由で『週刊ポスト』から取材を申し入れましたが、回答を拒否されたので、推測になってしまいますが。外部的に観察する限り、彼は近年、極めて親中国共産党的な立場を明確に示していると判断されます。
というのも、中国では近年、琉球独立にも言及する、一応は学術フォーラムの体裁をとったイベントをしばしば開いています。松島氏はそうした場に、中国の招待で行っている。中国への渡航費、現地でのホテル滞在費など、中国側の負担のようです。そもそも独立総合研究学会のメンバー複数が中国に招待されていますが、その中でも松島氏はかなり頻繁に行っていると指摘できます。
「日本勢力は琉球から撤退しなければならない」
──なるほど。
安田 松島氏は『環球時報』の邢暁婧氏の取材を受けているほか、党のプロパガンダ媒体にしばしば登場しています。2025年12月22日付の『観察者網』……。つまり、インテリ向けに党の言説を流す、中国の有力なオンラインメディアで紹介された、中国国内の“学術”フォーラムの演説のタイトルは「琉球人として中国政府に心からの謝意を示す」。文中冒頭の見出しは「中国の藩属国としての琉球の地位を回復する」です。
これらは中国側の編集者がつけた見出しですが、演説本文のなかでも松島氏は「琉球はかつて中国の藩属国であった。したがって、中国領土の一部である」「日本勢力は琉球から撤退しなければならない」と話していたことが、すくなくとも中国語文からは確認できます(https://m.guancha.cn/MatsushimaYasukatsu/2025_12_22_801185.shtml)。
松島氏は中国の体制に対して反対協以上に無批判で、中国共産党についても警戒心をほとんど持っていない。むしろ「良い存在」だと思っていらっしゃる方だと思います。
──沖縄の独立を公然と主張する人は、県民のなかでそれほど多くありません。ここに中国が大きな影響を与えて、世論を琉球独立に変化させることは現実的ではなさそうにも見えます。
安田 これについては、中国はもう少し戦略的だと思います。中国は現時点で、沖縄を本気で独立させようとしているわけではない。ただ、「不安定化させたい」というのは、マクロな戦略上かなりあると思います。
動機の一つは台湾問題などに対する報復です。近年の日本は、かなり台湾にコミットし、高市総理の「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」という発言もあった。数年前に新疆や香港の弾圧問題が話題になった際も、日本政府は従来と異なり、かなり積極的に中国批判に回りました。中国にはこれらに対して、「それならこちらも日本の国内問題に介入してやる」という発想がある。いわゆる「琉球カード」と呼ばれるものです。
もう一つは台湾有事。軍事行動が現実に起きるかどうかは別として、中国は当然、戦略としては考えています。もちろん表向きは「平和的統一」を繰り返していますが、ディスインフォメーションによる認知戦で台湾社会を混乱させ、選挙に介入し、外交圧力で台湾を国際的に孤立させ、民兵漁船や海警船や軍事船舶で台湾近海を包囲・封鎖して日干しにして降伏させることだって、中国側の理屈では「平和的」手段です。一休さんのとんちみたいな話ですが。
こうした広義の「有事」が起きた場合、台湾に最も近い西側最大の後方基地、もとい前線基地が沖縄です。その地域の社会が、「自分たちの帰属先は日本なのか」と考えだしたり、日米両政府への不信感を今以上に強めたりすれば、中国にとっては極めて好都合です。
なので、2023年の夏ごろから中国側のいろんな組織が動いています。伝統的な党統一戦線工作部や外交部のほか、中央党校、さらに今回のような党中央宣伝部系の当局御用メディア。加えておそらく公安や人民解放軍も。また、ネット上に琉球独立のフェイク動画を流している主体には、福建省あたりの党支部の宣伝部も関与しているかもしれません。官僚組織にありがちな話ながら、それぞれ横のつながりがなく、連携が取れていなかったりはしますけれども。
言わずもがなの話ながら、これらのアプローチを担う中国側の人員の本音に、沖縄の人の幸福や平和、アイデンティティへの思いに寄り添ってあげたい──。という考えは一切ない。考えているのは、沖縄に対する工作活動の実施が、体制内での自分の保身や評価につながるか。それだけです。
