排外主義の高まりと「家産制国家」
内田 排外主義の高まりは世界的なトレンドですが、どこでも深刻さを増していますね。先日、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩さんとオンラインでお話ししたのですが、町山さんは日本への一時帰国すらままならないそうです。トランプ政権の移民排除政策で、過去にわずかでも法律違反があると再入国できないかも知れない。小切手の残高不足や交通違反程度の微罪でも入国拒否・強制送還のリスクがあるので、怖くて試せないそうです。
日本でも「日本人ファースト」が声高に叫ばれ、入管法を厳格化し、永住許可の取り消し要件を拡大するなど移民排除の空気が強まっています。ブレイディさんの本にある「家産制国家」という分析はイギリス、アメリカ、日本で起きていることの核心を突いていると思いました。
ブレイディ 「家産制国家」とは社会経済学者のマックス・ヴェーバーによる、家父長制的な支配構造をもつ国家形態を指す概念ですが、支配者が国家を家業のように扱う点に特徴があります。家産制国家では、国父――お父様がいて、国をまるでひとつの家族のように扱って、娘たちに家庭を最優先して子を産むことを要求します。トランプ大統領はトランスジェンダー問題をことさらに煽って「民主党は男性が女子トイレに入ってくることを望んでいる。信じられない狂気だ」といった発言を繰り返していますが、「トランス選手が女子競技に参加することを禁じる」大統領令に署名した時の写真は象徴的です。10代の女の子たちにぐるりと囲まれたその光景は、まるで娘たちがお父様を取り囲んで保護してもらっているかのようで、ぞくりとした怖さすら感じました。
「自分たちと同程度の知性・倫理性の人間がいい」
内田 トランプは平気で嘘をつく、道義性の欠片もない人物です。いくつもの犯罪で有罪判決を受け、エプスタイン文書の中心人物であるにもかかわらず、それが特に人気に影響していない。今トランプの支持率が下がっているのは経済政策の失敗が理由です。トランプの道義性や論理性に対する批判ではない。アメリカの有権者たちは「自分たちの政治的代表者は、自分たちと同程度の知性・倫理性の人間がいい」と思っているのでしょう。
かつて橋下徹氏が大阪府知事に立候補した際、大学のゼミ生たちに感想を聞いたらほとんどの学生が彼に投票するというのでびっくりしたことがあります。理由を聞いたら「すぐ感情的になったり、論理的でないことを口走るのが『隣のお兄ちゃんみたい』で親しみがもてるから」というものでした。それまでは、「一般市民より知的・倫理的に優れた人が公人になるべきだ」ということが暗黙の常識でしたが、その頃からその常識が失われた。
ブレイディ 実は、今度6月18日に実施されるイギリス下院の補欠選挙で、バーナム市長への対抗馬としてリフォームUKがぶつけてきた候補者が若い配管工ロブ・ケニヨンです。彼は、過去の女性蔑視的な発言が暴露されて騒がれていますが、党の広報担当者は「男子ロッカールームでの冗談」などと開き直って擁護し、謝罪もしていません。男なら普通のことだから、たいしたことないじゃないと言わんばかりです。

