日本生まれの「自己責任」という言葉
内田 高市首相は中国との関係を悪化させ、イランとまともに交渉せず、アメリカには頭が上がらず、円安は止まらず、物価は上がり続けている。短期間にこれだけ日本を貧しくして、外交にも成果がなく、「中傷動画」事件で陣営に重大な疑惑が出ているのにまったく国会で「説明責任」を果たそうとしない。
まさに、ブレイディさんが本で指摘していた、為政者は説明責任(accountability)を果たしていないのに、一般市民はすぐ「自己責任」(self-responsibility)を求められる。階層的な“責任格差”が生じているように見えます。お話では、「自己責任」は日本が輸出して英語の語彙に入った言葉だそうですね。
ブレイディ 自己責任という言葉は就職氷河期の日本で広まりましたが、もともとresponsibilityは「各々が自分の義務に対して果たす責任」を意味するのにそこにわざわざselfをつけた特殊な言葉が、若者たちの深刻な就職難を背景に、近年イギリスでも使われるようになりました。同時に、「ロスト・ジェネレーション」という言葉も広まり始めています。コロナ禍の時に精神を病んだ若い世代で仕事にうまく適応できない人が増えていて、AIのせいでビギナー向けの仕事が少なくなっている脅威が彼らを直撃しています。ちょうど10代半ばから20代前半が“イギリスのロスジェネ世代”と言われています。
内田 今年の大学新入生はコロナ禍の時に中高生だった世代です。ずっとマスクをさせられていたこの世代は、思春期の多感な時期に「人の表情を見ない」で育ってきたせいか、表情に乏しいんです。授業でも無反応なんですよ。壁に向かって話しているみたいです。でも、感想を書かせると、ちゃんと聴いていて、内容はよく理解しているんです。表情や身ぶりで自分の気持ちを伝えることがうまくないんです。
ブレイディ 最近放送されたBBCの特集で、同じZ世代でも1.0と2.0があって、前者はコロナ禍のロックダウンが始まる前に高校時代を経験していた世代、後者はティーンの感受性が一番豊かな時期にリモート授業等で、家の中にいることを余儀なくされた世代だと分類されていました。このZ世代2.0に、もうAIはたくさんだと感じる子が多く、反AI運動も起きているんです。
今年、元グーグルCEOのエリック・シュミットが、アリゾナ大学の卒業式でAIを称賛するスピーチを行ったら、学生たちから大ブーイングが起きたというニュースがありました。他の大学でも財界の大物がAI擁護の話をすると同様の反応だそうです。うちの大学生の息子を見ても、メールは全部AIに書かせるくらいAIに慣れ親しんでいる世代ですが、だからこそ自分たちから「経験」を奪われていることを敏感に感じ取ってまずいと思っている。
(後編へつづく)