待ち望まれる国民的和解の象徴
内田 今、真に必要なのは、異なる政治的立場を超えて、「どちらの言い分にも聞くべき点があり、それぞれお立場がある。どうです、ここはひとつナカとって」と調停できる人なんだと思います。
エルヴィス・プレスリーがなぜ音楽史で「キング」と呼ばれるかと言うと、1956年に「ハートブレイク・ホテル」がカントリー、ポップスで1位、R&Bチャートでも3位になったからです。同じ曲がカントリーとR&Bの2つにチャートインするのは奇跡的なことです。西部でカントリー聞いてる白人も、都会でブラックミュージック聞いている黒人も、ポップス好きのハイティーンも、あらゆる集団が「これは自分たちの音楽だ」と感じた。エルヴィスは人種の壁を超えて、すべての集団から「自分たちの代表」に認定された。だから「キング」なんです。
今、次期天皇をめぐる論では「愛子天皇」待望論が圧倒的に優勢ですね。思想的な右左や階層の違いを超えて国民の多くが「この方に天皇になってほしい」と思っている。分断を超える国民的統合の象徴になってほしいと思っている。全国民が等しく「自分たちの代表」だと思う人が「キング」になるべきなんです。愛子さまの場合は「クイーン」ですが、彼女が国民的和解のきっかけになる可能性を僕は感じます。
ブレイディ イギリスではマルチパーティ・デモクラシーの時代になったことで、まさに複数の党を束ねる新しいリーダーが待ち望まれています。バーナム市長は「キング・オブ・ザ・ノース」ですから、将来的に政党の違いを超えて、北部と南部を束ねられるかもしれません。
右派は経済が悪く、生活水準が下がっているのは移民のせいだと思っています。左派は金持ちからもっと富裕税をとらないから社会が貧しいと思っている。英国は、敵を作って批判する左右のポピュリズムの典型的構図になっているのです。でもこうした政治勢力の「敵認定」は流動的なので、いつ自分が「社会の敵」に認定されるかわかりません。移民を排斥する社会は、今度は障害者や働けない弱者に対して矛先を向けるのは歴史が証明しています。
他者の排除から始まる社会の崩壊――それはどこでも、ここでも確かに起こり得ることです。そこに危機感をもって壊れゆく世界に抵抗すべき時だと思っています。
内田 加速主義に抗うもうひとつの軸はテクノ・プルデンシャリズム(技術的抑制主義)だと思います。そんなに急がず「まあ、ちょっと落ち着けよ」主義ですね(笑)。
「ま、縁側でお茶でも飲んで、月が出てくるのを待ちましょうよ」という時間感覚を取り戻すこともカオス化する世界への効果的な抵抗になると思います。
(補記:6月18日のイギリス下院の補欠選挙でバーナム氏が大勝し、スターマー首相が辞任を表明した)