「本物の豊かさ」とはなにか。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「“寿司屋の選び方”という一つのレンズを通すことで、答えが見えてくる。海外の高級寿司屋で一晩数百万円を溶かす“新興の富裕層”がいる一方、まったく別の選択をする富裕層もいる。見栄やステータスでの消費をとうの昔に卒業し、成熟の域に達したトップエリートたちが行きついたのは、意外な場所だった」という――。

「高級寿司」はハレの日に

われわれ日本人にとって、寿司という食べ物は極めて特殊な位置づけにある。普段は一皿100円の回転寿司チェーンで合理的に胃袋を満たしながらも、「特別な日には回らない寿司屋に行きたい」という強烈な憧れを抱いている。

日々の仕事に追われながら堅実に生きる多くのビジネスパーソンにとって、客単価1万5000円から3万円の高級な鮨屋の暖簾をくぐることは、誕生日や結婚記念日、あるいはプロジェクトの打ち上げなど、年に数回の「ハレの日」のイベントである。

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数カ月前から予約を入れ、緊張しながらカウンターに座り、職人の手元を見つめる。そして、目の前に出された美しいウニや大トロの握りをスマートフォンで撮影し、「最高の記念日になった」「自分へのご褒美だ」と満足して店を後にする。

写真=iStock.com/Artit_Wongpradu ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Artit_Wongpradu

この消費行動自体は、何ら否定されるべきものではない。自らが汗水垂らして稼いだお金で、大切な人と美味しいものを食べ、非日常の空間を楽しむ。それは極めて健全で、ささやかで美しい幸せの形である。

マーケティングの観点から見れば、彼らは「コストパフォーマンス」と「ハレの日の特別な体験」というバランスの中で、極めて合理的な消費を行っているマジョリティ層だと言える。

しかし、世の中にはこの常識や金銭感覚がまったく通用しない、バグのような別世界が存在する。それが、一晩の食事に数百万円という途方もない金額を平然と投じる「新興富裕層」たちの世界と、そこからさらに独自の境地へと達した「成熟した富裕層」たちの世界である。