一口に富裕層と言っても、まったく別の世界もある。

見栄やステータスでの消費をとうの昔に卒業し、成熟の域に達したトップエリートたち――いわゆる「オールドマネー」と呼ばれる代々の資産家や、教養を備えた本物のエグゼクティブたちは、シンガポールで400万円のワインを開けることにも、銀座で予約半年待ちの高級店でマウンティング合戦をすることにも興味を持たない。

では、彼らは一体どのような鮨の食べ方をするのか。

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プライベートジェットで向かう先

彼らが冬になると、新幹線やプライベートジェットに乗ってまでわざわざ目指す場所がある。

それが、富山県の氷見(ひみ)をはじめとする地方の港町の鮨屋である。

訪れるのは、一人数万円もするような煌びやかな高級店とは限らない。地元の人々も足を運ぶような、一見すると大衆的で、庶民にも手が届くような価格帯の店であることも珍しくない。それは決して「コスパが良いから」ではない。数百万円の交通費と宿泊費という見えないコストをかけてまで、わざわざ富山へ足を運ぶのには、極めて知的でダイナミックな理由が存在する。

彼らが求めているのは「美味しい寒ブリ」という“結果”だけではない。「奇跡の地形で育まれた究極のエネルギー」そのものを、現地で直接摂取しに行っているのである。

ここで、少しだけ地理の授業のような話にお付き合いいただきたい。富山湾がなぜ「天然の生簀(いけす)」と呼ばれるのか、その理由を知れば、成熟した富裕層たちが何を面白がっているのかが見えてくる。

「4000mの壮大な大自然の循環システム」

富山県には、標高3000m級の立山連峰がそびえ立ち、そこからわずか数十kmという極めて短い距離で、水深1000m以上にも達する富山湾の深海へと急激に落ち込んでいく特異な地形がある。冬になり、立山連峰に降り積もった大量の雪は、やがて雪解け水となり、広大な森林の豊かな腐葉土を通ってたっぷりと有機質(ミネラル)を蓄えながら、海へと一気に流れ込んでいく。