8月。戦争を彷彿とさせるワードにいつも以上にセンシティブになる季節。そこへ『軍服を着た神様』とは何ごと? しかも舞台は台湾。日本人が神様として祀られているってどういう意味? 気になる調査結果をどうぞ!

今週のターゲット『軍服を着た神様』

〈あらすじ・概要〉台湾各地に50カ所以上あるという“日本神(にほんがみ)”信仰を訪ね歩くドキュメンタリー。なぜ彼らは日本の軍人を神として崇めているのか。知られざる日台交流の実態を描く。旅人は文化人類学者・藤野陽平。遠藤協(かのう)監督。107分。ポレポレ東中野ほか全国順次公開中。

『軍服を着た神様』

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 大日本帝国の軍人が、今なお台湾のあちこちで「ローカルな」神様として祀られている! という、右な人も左な人も簡単には受け身をとれなそうな興味深い事実を、フットワーク軽め、ただし真摯に追っていく硬派作品です。もっと言えば、比較文化学や民俗学的な領域に属しながら歴史・戦争・死といったテーマを扱った実録調査映像です。

 とにかく現地に行ってみようという企画の提案者(プロデューサー)かつ旅人として登場する文化人類学者の藤野陽平氏も、記録映像作家で監督の遠藤協氏も、台湾の皆様もみな真摯。そこに正面から心霊要素が迫ってくる――。これが案外、子供だましでない「本格」なのが第1の要点。次に、この手の作品では得てして曖昧になりがちな軍事史面の裏付け考証がしっかりしているのが第2の要点。そして、全体を包むサウンドや人間描写の絶妙なゆるゆる感が大いなる隠し味として機能する、これが第3の要点。ちなみに、それぞれの神様紹介は台湾の人形劇やアニメーションで行われ、その独特すぎる雰囲気も見どころです。

 作中で紹介される廟は5つ。明治の台湾出兵から第二次世界大戦までの間に戦死した日本の軍人が「日本神」として祀られています。中には、いったん怨霊化したのを現地ローカル神のトップが諭して弟子にとり、修行させて、下級ローカル神として再起動させたという神様も。この設定が凄い。そしてこういった、まだ神様としては見習いにあたる日本神たちは、ギャンブルとか恋愛とか、「上級神に伺いをたてるのはちょっとな」という俗っぽいお願いニーズの対象として台湾社会で親しまれているという……うん、親しまれているのはいいことだ。しかし「神」でありながら超ヘビースモーカーだったり、廟の管理人にけっこうな無茶振りを命じていたりもして。それはアリなのか?(笑)

 特に印象に残ったのは、ある廟で霊媒をつとめている女性が日本神に憑依され、いっさい瞬きをしなくなったシーン。降霊のホンモノっぷりと、相談をしにきた信徒に下される託宣の「酒とタバコはやめなさい」みたいな即物っぽさのギャップが素晴らしい! そこへ日本人の子孫が訪れ、神様となった先祖に対面するシーンも。その日台交流は、異なる死生観を持ちながら互いにリスペクトがあり、既存の歴史思想的議論では処理できない独自の味があります。

 ……という感じで、視聴前の前情報から想像されうる、あらゆる予想を超えてくる知的養分に圧倒される作品でした。昨今は、ジャンル細分化によって、観客が自分の「推し要素」のみに金を出すようになったと言われています。しかしそれは中長期的にみて、知的市場が先細りする負のスパイラルをもたらしてしまう可能性が高い。そこで求められるのは、複数のジャンルのキモに横串を刺して一気に提示することで、知的な相乗効果を観客に感じさせる作品です。本作こそまさにそれ。奇跡のゆる真面目ドキュメンタリーと申せましょう。

 お世辞抜きで、これは私が観た今期ドキュメンタリー映画の中で現時点ベスト。歴史と人間と精神に関心をもつ方なら、必見の傑作です!

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