遺体の胸の上に「小さな白うさぎのぬいぐるみ」
その後、二人の遺体は病院から目白署に移された。事故の翌日の午前一〇時ごろ、目白署で東京都の監察医が二人の死体検案を行った。遺体は損傷が激しかった。事故との因果関係も明白であり、監察医は死体検案調書に解剖の要否について「否」にマルをつけた。
僕は莉子の遺体の胸の上に、小さな白うさぎのぬいぐるみを見つけた。莉子が公園で遊んでいた「シールちゃん」だった。莉子にとって、シールちゃんは親友で、おむつを替えてあげたり、寝かしつけをしたりしていた。もともとシールちゃんは、真菜が亡くなった姉の形見としてもらったもので、莉子に受け継がれていた。
沖縄から来たシールちゃんは、二人の死を経験した。そして、大切な親友の最期に寄り添った。遺体の上にシールちゃんを置いたのは、目白署の警察官による配慮だった。
このとき、松永家、上原家、そして真菜の知人らが一目でも早く真菜に会いたいと思い、目白署に集まった。その数は約三〇人にのぼり、通常の部屋には入りきらず、講堂で待機したという。中には嗚咽を上げる者もいた。
葬儀業者から「ご遺体にエンバーミングを施しますか」と確認された。エンバーミングとは、遺体の損傷部を修復し、生前の姿に近づけるための技術だ。二人の場合は体の損傷が激しく、修復には三日を要するという。エンバーミングをすれば二人と過ごす時間は短くなる。
綺麗な状態にしてあげた方がいいのか、残された時間を優先した方がいいのか――。親族や友達もお別れをしたい、自分も一緒にそばにいてあげたい。何より、真菜と莉子が離れ離れになるのはつらいだろう。
葛藤の末、エンバーミングをしないという判断を下し、二人の棺を実家の仏間に運び込んだ。部屋の左側にあった仏壇の横に、真菜の棺桶、莉子の棺桶の順に安置した。
通夜は二三日の午後六時から、二人が死の直前までいた南池袋公園近くの「沙羅ホール」で行われた。沖縄だけではなく、日本全国から真菜の知人など約四〇〇人が参列した。式を時間内に終わらせるために焼香を一回だけとしたが、会場では収容しきれず、何十人も路上に溢れた。