遺影は事故四か月前のクリスマスに写真館で撮影した七五三の和服姿だった。向かって右が真菜、左が莉子で、二人とも正面を向いて微笑んでいた。真菜が好きだった桜色の花が、遺影を取り囲んだ。右に真菜、左に莉子の棺が安置された。僕は真菜の近くに座った。喪主の挨拶は何とか乗り切ったが、このときの記憶はほとんどない。
事故直後の日々を回想する松永の虚ろな瞳は、ずっと斜め下を向いていた。
上原がたまらず言葉を発した。
「最後の日を、莉子と真菜だけにするわけにはいかないので、私が『泊まる』と言ったら、たくも『私も泊まります』と」
「二人に出会えて幸せだったよ」
通夜は午後八時半に終わったが、松永と上原は家に帰らなかった。休憩場所で休みながら、できるだけ棺桶の近くにいるようにした。線香が切れないようにしたり、莉子ちゃんの棺桶の蓋を開け、お菓子を置いた。
松永は押し黙っていたが、私が「拓也さんは?」と尋ねると、こう語りだした。
お義父さんと交互に休みを取りながら、お別れをした。告別式の後に記者会見が予定されていたので、休憩室で夜中三時頃まで記者会見の原稿を書いた。そして、最後に、莉子が好きだったノンタンの絵本を読んであげた。毎夜、本棚から絵本を四冊選び、莉子に読み聞かせていたから。
空は白み始めていた。棺桶は別々なので同時に二人の手を握れない。まず真菜の手を握った。
思い出話をしながら「愛してる」とつぶやいた。次に、莉子の手を握った。
「生まれてきてくれてありがとう。二人に出会えて幸せだったよ」
人生で最後のお別れ
朝を迎え、午前一〇時から告別式が始まった。真菜と莉子の身体は、参列者が手向けた花で埋まり棺桶の蓋が締まりきらないほど溢れていた。ただ、僕は「最後のお別れなのに、娘の顔すら見ることができないなんて、無念すぎる」と感じていた。
その一時間後、霊柩車が真菜と莉子を乗せて、新宿区上落合の落合斎場に移動した。
松永が続ける。
「これで本当に、人生で最後のお別れなんだなって。離れ離れの棺桶の間を、行ったり来たりして。おでこにキスをして。棺桶が閉まるのが嫌で、号泣して。みっともなかったと思うんですけど。生前に何度も何度も言っていたけど、最後のお別れのときも二人に『愛している』って言えたし、感謝の気持ちも伝えられたから」