私の独り言だと思って聞いてください。どうかこれは、記録に一切残さないでほしい
《負ける戦を、どういう風に……その、負けるかということも、また、難しいもんだ。ただ、負けるにしても、後世の人に、何かを遺して、そして、死んでいくと。……そういう風な、まぁ、気持ちがあったんじゃないかな。だから伊藤長官も、『一億総特攻の魁となって死んでくれ』と言われた時に、『ああ、そうか』と。これなら死に場所として、あるいは死ぬ名目として、立つと。そういう風に、判断されたんじゃないかと思う》
そこで、テープには長い沈黙が流れた。ジジジ、というノイズだけが、空白の時間を埋めていく。まるで、言葉を口にするのを躊躇うかのように。
《…………原さん》
唐突に、三上の声のトーンが変わった。喉の奥から絞り出すような、湿った響きだった。
《はい》
《あなたには……やっぱりお伝えしておきます》
《それは、どういう……?》
《私の独り言だと思って聞いてください。どうかこれは、記録に一切残さないでほしい。どうか、墓まで持っていってください。そのテープも……》
ブツン。乾いたノイズと共に、テープの音が途切れた。
……しばらくして、不意に、ガチッという録音ボタンが押される音が入り、唐突に人の声が戻ってきた。
《……ははは、いやぁ、そうですねえ》
三上の声だった。ついさっきまで、喉を振り絞るようにして呻いていた苦渋の響きは、嘘のように消え失せていた。まるで憑き物が落ちたかのような、穏やかで、どこか晴れ晴れとした老人の声がそこにあった。重い荷物をようやく下ろすことができた─そんな安堵感すら滲ませていた。
《今まで僕はもう20人くらい関係者に会って、色々お話聞いてきましたけど……》
原の声もまた、今までの張り詰めた緊張から解放され、柔らかい調子になっていた。
《その、本とか読んで、書いてあることとあまりに違うもんですから、驚いちゃって……もう全然分からなくなってきましたよ(笑)》
《なるほど。まぁ、そんなもんでしょうな》
これを最後に、今度こそ本当に、カセットテープの再生が終わった。
明らかに不自然な中断であった。
この間に、三上は一体何を喋ったのだろうか。


