森下は、喉まで出かかった抗議の言葉を呑み込んだ。伊藤のその相貌が、全てを物語っていたからだ。「作戦は発動した。貴様らも黙って従え」という、無言の圧力。森下も、有賀も、居並ぶ幕僚や艦長たちも、無念に歯を食いしばりながら、深く頭を垂れて矛を収めるしかなかった。海上特攻隊の覚悟は、これで統一されたのである。

 13時。海上特攻隊の作戦打ち合わせでは、伊藤長官による作戦説明の後、豊田長官(連合艦隊司令長官・豊田副武大将)が発布した訓示の読み上げがあった。

何の慰めにもならなかった美辞麗句

「帝国海軍部隊は陸軍と協力、空海陸の全力を挙げて沖縄島周辺の敵艦船に対する総攻撃を決行せんとす。皇国の興廃は正に此の一挙にあり。茲に特に海上特攻隊を編成し壮烈無比の突入作戦を命じたるは、帝国海軍力を此の一戦に結集し、光輝ある帝国海軍海上部隊の伝統を発揚すると共に、其の栄光を後昆に伝えんとするに外ならず。各隊は其の特攻隊たると否とを問わず、愈々決死奮励、敵艦隊を随所に殲滅し以て皇国無窮の礎を確立すべし」

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 薄い、取ってつけたような美辞麗句を並べただけのものであった。これから実際に沖縄へ、死地へ向かう海上特攻隊に対しては、何の慰めにもならなかった。

 形ばかりの酒杯をあげた後、三上は山本先任参謀(第二艦隊先任参謀・山本祐二大佐)を見つけると、ひっそりと話しかけた。

「二艦隊を特攻に出してしまえば、水上部隊の作戦を担当する『作戦甲参謀』としての用はなくなります。私も一緒に戦います。このまま日吉に帰るわけには参りません」

 三上にとって山本は、自身が軍令部に勤務していた頃の先輩であり、公私にわたって心からの指導を受けた、尊敬する恩人でもあった。

 このまま帰っていいのか。自分たちが押しつけた死の作戦で、恩人が死のうとしているのに、自分だけ帰ってのうのうと生き延びていいのか。激しい自責の念が、三上の胸を突き上げた。

「お願いです。私を『大和』に乗せて、どうか連れていってください!」

 それは、参謀としての職務を超えた、三上の魂の叫びだった。だが、三上の必死の懇願に対し、山本は吐き捨てるように言った。