草津よいとこ、一度はおいで——。
というわけで、特急「草津・四万」に乗り込んだ。
上野駅から草津温泉の玄関口・長野原草津口駅までを約2時間20分で結ぶ列車だ。夏休みの特急列車、家族連れや若いカップルで8割方座席は埋まっている。
こんな暑さの続く中、わざわざ温泉に……と思わなくもない。が、草津は群馬県の山の中にあるためか、東京都心と比べれば10℃近くも気温が低いのだ。真夏でも夏日にすらならないことも多いという、いわば“避暑地”のひとつなのである。
たくさんの行楽客を乗せた特急列車は、高崎駅を経て渋川駅からは吾妻線に乗り入れる。その頃には車窓はすっかり山の中。吾妻川に沿うように、ぐんぐんと山奥に分け入ってゆく。
特急列車は終点の長野原草津口駅に到着した。吾妻線そのものはここが終点ではなく、大前駅までさらに西の山奥へと線路が続く。が、特急列車はここまでだ。草津温泉まではバスに乗り継いで30分ほどかかる。到着から15分もしないうちに、特急から降りたお客のほとんどはバスに乗って駅前から去っていった。
……と、ここまでやってきたのだが、実は目的地は温泉ではない。
55年前に消えた「太子線」とは?
吾妻線は、沿線に草津温泉以外にもいくつもの温泉が点在しているいわば行楽路線だ。ただ、この性質が固まったのは1970年代以降のこと。吾妻線は1945年1月2日に開業した。当時は渋川~長野原(現在の長野原草津口)間で、路線名も長野原線と名乗っている。
そして、その当時は長野原から現在とは別の方向、白砂川に沿って北に線路が続いていたのだ。

