省エネ型の攻略法
社会からの求めに応じずいそいそと「退出」する――その実践のひとつの極致が、「独身こどおじFIRE」だ。
独身のまま実家で暮らし、住宅費を極小化し、若いうちにまとまった金融資産をつくる。その後は運用収益と週数日のゆるい労働を組み合わせ、所得も消費も必要最低限に抑える。完全に働かないわけではない。社会との接点と毎月のキャッシュフローを確保しながら、フルタイム労働と住宅ローンと家族扶養を人生から外す。これが「独身こどおじFIRE」である。
一般的なFIREが「十分な資産を築いて労働から自由になる」という富裕層の夢だとすれば、独身こどおじFIREは少し文脈が違う。豊かな生活を手に入れることより、必要生活費を徹底的に引き下げ、課税される所得を最大化しないことに重点がある。大きく稼いで大きく使うゲームそのものから降りるのである。豪華な上がりではない。省エネ型の攻略法だ。
火炎瓶もプラカードも使わないが…
もちろんすべて合法だ。単に、制度が提示したルールのなかで、自分の負担が最も小さくなる場所へ移動しているだけだ。ご存じのとおり日本の税・社会保険制度は金融資産よりも給与所得を捕捉しやすく、働いて稼ぐ人から負担を集める構造となっている。ならば、給与所得を増やさず、生活費も増やさず、行政上の所得区分でも低い側にとどまればよいというわけだ。真面目に働く給与所得者から税金や保険料をぶんどってきた国家に対する、きわめて合法的なシステムハック、あるいは意趣返しである。
しかもこの静かな抵抗は一人分の税収を減らすだけでは終わらないところが恐ろしい。フルスペックの労働力を供給しない。住宅を買わない。大きな消費をしない。結婚せず、次世代の労働力も再生産しない。若者が社会に差し出すはずだった労働、税、保険料、消費、出生をまとめて引き揚げる。火炎瓶もプラカードも使わないが、高齢者中心の高福祉社会にとっては、こちらのほうがはるかに効く。それをいま、大小の差こそあれ、何万人、何十万人もの若者が目指しているのである。