怪しいパクリ企業と意識高い系ベンチャーの奇妙な共存
梶谷氏は深圳の街でイノベーションを生み出す母体について、特に知的財産権の保護に対する姿勢に着目して、各企業群を「プレモダン層」「モダン層」「ポストモダン層」の3層に分けている。この分類を私なりの言葉で噛み砕くと以下のようになるだろう(なお、もっと正確に知りたい人は元の書籍に当たることをオススメする)。
【前近代的な怪しい小企業】:知的財産権を完全に無視していて、近代的な法律遵守の概念を持たない前近代的な価値観の企業群。コピー携帯を作っているような零細企業が該当する。
【現代的な大企業】:特許に代表される近代的な知的財産権を通じて独自技術を囲い込む、近代的な価値観で動いている企業群。ファーウェイやZTEのようなハイレベルな大企業が該当する。
【意識の高い21世紀型ベンチャー】:独自技術を特許で囲い込まずにオープンソース的に開放して社会全体のイノベーションの促進を図るような、従来にない新しい価値観を持つ企業群。一部のベンチャー企業が該当する。
深圳のイノベーションは、知財権をガン無視してうさんくさいパクリ製品を作るような怪しい会社と、カッチリしたITインフラを提供する普通のちゃんとした大企業と、ギークでスマートなベンチャー企業の3者が相互補完的な関係にあることで生まれているというのが梶谷氏の指摘だ。
アリババやファーウェイがITインフラを整備
例えば、有象無象の零細パクリ企業が元気に生存できるような、部品の調達や外注先探しなどが容易におこなえる深圳では、起業のハードルが低くなり、ギークなベンチャー企業にとっても生きやすい環境ということになる。
また、中国は政府や社会の信頼性が低い国だが、いまやアリババなりファーウェイなりといった民間の大企業が信頼性の高い電子商取引システムやITインフラを整備してプラットフォームを作ってくれている。これは結果的に、零細パクリ企業やベンチャー企業が非常に商売がやりやすい環境を生んでいる。
深圳のイノベーションは、こういう各層の相互補完的な関係のなかで生まれている。結果オーライというべきか、ある意味では奇妙な形で歯車が噛み合い、「持続可能」なエコシステムが成立しているのだ。