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2018/10/01

「中国は専制体制だからこそ優秀なんだ」

 私は今年5月、六四天安門事件(1989年)をリアルタイムで体験した50歳前後の中国人の現在を追った『八九六四』という本を出した。現在の天安門OB・OGたちは、本人の社会的な成功度合いとほぼ比例して、中国共産党の専制体制について肯定的な見方を示すようになっていた。

 より若い中国人はもっと直接的だ。ここ数年は、留学生や日本語学習者などの日本と接触がある若い中国人(天安門事件以降に物心が付いた世代)が、日本の民主主義の非効率性や社会の停滞を露骨に嘲笑したり、中国の体制が「効率的」「合理的」であることを誇るような言動も少なからず見られるようになっている。

 中国は専制体制だからこそ優秀なんだ、というわけだ。イノベーションも治安の安定も国家の強さも、西側社会の常識の真逆を行くことでもたらされた「成功」である――。そんな考えが、負け惜しみや痩せ我慢ではなく本気で主張されるようになりつつある。もちろん中国発のイノベーションも、そうした社会だからこそ生み出されるものだ。

東南アジア、アフリカで支持される中国

 加えて、そんな中国のあり方は、現在の国際社会でそれなりに認められてもいる。カンボジアやラオスのような東南アジアの諸国や、アフリカ諸国の政府の間で、はっきり言って中国の評判は相当いい。

 政治の民主化や人権擁護を援助の条件にしてくる欧米諸国と違って、中国はこれらの国がどれだけ非民主的でも文句を言わずカネを出し、結果的にこれらの国を(少なくとも見た目の上では)豊かにしてくれるからだ。

 発展途上国から見れば、自分たちが達成不可能な目標の実現を先進国(=かつての侵略者側)から要求され続ける欧米モデルよりも、民主主義も人権も言論の自由もあまり気にせずOKだが経済発展は可能な中国モデルのほうが、ずっと簡単に「幸せ」になれる道に見えるのも当たり前のことだろう。

「中国モデル」はコケるのか、コケないのか?

 現在の中国は、80年前の大日本帝国以来久しぶりに、政治・経済・軍事の各方面で公然と欧米(≒アメリカ)に対抗する東アジアの国家になる意欲を見せている。ちなみに太平洋戦争初期、大日本帝国では「近代の超克」という主張が生まれ、西欧的近代の常識の克服と東アジア独自の価値観の確立が唱えられた。

 いっぽうで中国は、もともと毛沢東時代から「第三世界の連帯」を主張し、西欧的な近代意識とは距離を置いた国家のあり方を積極的に肯定するDNAを持っている。習近平時代になって、中国では文革以前のイデオロギーが各方面でモダンな装いになり復活している感があるが、この第三世界の連帯(≒一帯一路)もそのひとつだろう。

 西側的なデモクラシーやヒューマニズムは無視するけれど「成功」している――、という現代中国版の「近代の超克」は、往年の大日本帝国のようにすぐにコケる一時的な現象にすぎないのか、それとも人類の社会のもうひとつのスタンダードとして今後は定着していくのか?

 現在の米中貿易戦争を見る限り、先行きはどうなるかはわからない。ただ、いくら近年の中国が一見イケているように見えたとしても、少なくとも現代の日本がマネをしてはいけない性質のものなのは確かだろう。中国発のイノベーションは、確かに褒めるべき部分は褒めるべきなのだが、それがどんな背景で生まれているかはしっかり見極めておきたい。

さいはての中国 (小学館新書 や 13-1)

安田 峰俊(著)

小学館
2018年10月3日 発売

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