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革新的サービスが普及するパターン

 中国でよく見られるのが、ある革新的なサービス(シェア自転車やQRコード決済が代表的だ)が登場した段階では政府がそれをしばらく放置して、ある程度の普及が見られてから後付け的にルールを整備していくパターンだ。良くも悪くも、新しいサービスが日本よりも迅速に社会で実装されやすいわけである。

『中国経済講義』は、中国におけるイノベーションのこうした普及過程について、権威主義的な政府と活発な民間経済の「共犯関係」を指摘している。

 私の言葉で噛み砕いて言うなら、中国では庶民が政府をぜんぜん信用していないため、政府が作ったシステムの裏をかいて行動することが常識になっており、ルールを真面目に守ろうとする意識が薄い。これは結果的に、商売のうえでは(いかなるルールが存在しても抜け道を見つけるという意味で)何をやってもOKという一種の「自由」な環境を生むことになっている。

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 対して政府の側も、庶民がそういうふうに行動することを織り込み済みで法整備をおこなう。結果、中国の社会において、政府としていちばん効率的な動き方というのは、事前にかっちりとルールを作るのではなく(=作ってもどうせ守られない)、民間で何か新しいことが始まってから事後承認的にルールを整備していくことだ。

精肉店や八百屋でもQRコードによる決済が普及している ©AFLO
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日本が中国を「絶対に」マネできない理由

 現在の中国発のイノベーションの進展は、こうした中国の社会の特徴がプラスの形で反映された結果だとも言えるだろう。

 昨年ごろから、日本の情報感度の高い社会人のなかでは「中国スゴイ」論が出ており、今年の夏にはオシャレ系情報誌の『Pen』(9月1日号)が深圳特集を組むほどの盛り上がりを見せている。だが、よくよく考えてみると、中国のイノベーションとは日本が絶対にマネできない(かつ、マネしてはいけない)中国特有の社会や政府や庶民意識のありかたが、たまたま上手に組み合わさった結果として生まれたものでもある。

 ちょっと乱暴な言い方をすれば、中国は政府が強権的かつ収奪的で、知財権をはじめとする人間の社会的権利がしっかり保証されておらず、庶民が政府や社会をさっぱり信用していない国だからこそ、昨今のイノベーションが生まれている――。という指摘も可能なのである。