運が悪かった……。運ってなんだよ。それでは気持ちが収まりませんでした。

「治療にはどのぐらいかかるんですか」

「入院が、まず2週間から4週間。治療は順調に行って半年から9か月、最悪1年かかることもあります」

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「1年……」

 こういう時、患者というものは最悪の話しか耳に入ってきません。

 

「誰も俺が悪性リンパ腫だなんて知らないで笑ってるんだよな」

「全部駄目だ。せっかく受けた仕事が全部駄目になる。フリーになったばかりでこれからだというのに、どうしてここでがんなんかになっちゃうんだよ。やっぱり右肩上がりの人生なんてそうそうない。人生どこかでバランスが取られていく。プラマイゼロになるようにできているんだ」

 混乱の中でそんなことをぐるぐる考えました。

 最悪の日……でも仕事は待ってくれません。心と体の痛みを抱えながらそのまま日本テレビに行きインタビューを受けました。フジテレビ時代の後輩、中野美奈子さんの面白エピソードを語ってほしい、そんな依頼でした。いろいろなウラ話をしたところ、収録現場は大うけでした。

「ここにいる番組のスタッフも、放送を見るお客さんも、誰も俺が悪性リンパ腫だなんて知らないで笑ってるんだよな。俺もさっき告知されたばかりで、よくこんな時にウケる話ができるな。いやこんな精神状態だからこそ、むしろ冴えてるのかもしれない」

 そんなことを考えながら、雨の中、私は高円寺へと向かいました。劇団、カムカムミニキーナの「両面睨み節」を観るためです。

「がんになったのでキャンセルします」などとは失礼すぎて言えません。それに、この舞台の出演者であり友人の八嶋智人さんの突き抜けた芝居を生で見れば元気がもらえるかな、そんなことも考えていました。

 腰の痛み、迫り来る尿意と戦いながら舞台を楽しんだ後、楽屋で演出の松村武さん、八嶋智人さん、ラサール石井さんたちに芝居の感想など話しました。

 本当は自分ががんであるということを、「今日告知されたんだ!」と、そのまま飲みに行ってみんなに聞いてもらいたかった。

 抱え込まずに全部話したかった。

「頑張って!」「大丈夫だよ」と言ってもらいたかった。

 でも……できませんでした。ただ、今考えると、そんなことしなくて良かったと思います。あまりにも重い現実を友人から突然伝えられても、どう受け止めてよいかわかりませんものね。

 逆に今の私なら受け止めることができると思います。死の宣告を受けたような、こちら側の気持ちが嫌というほどわかりますから。