「人に迷惑をかけたくない」「ピンピンコロリで逝きたい」――老後についてそう願う人は多い。しかし厚生労働省のデータによれば、平均寿命と健康寿命の間には約10年もの、人の手を借りて生きる期間が存在する。

 誰の世話にもならずに老いて死ぬことは困難。それにもかかわらず「迷惑をかけたくない」という遠慮をしていると、周囲の負担を大きくしてしまうこともしばしばだ。では、どうすればいいのか。ライフネット生命保険の創業者、出口治明氏の著書『老いと死をファクトで考えてみた』(扶桑社新書)より一部を抜粋して紹介する。

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「人に迷惑をかけたくない」は、無理です

 なぜ、僕たちは「老いること」に過剰に反応してしまうのでしょうか。すると、必ずと言っていいほど出てくる言葉があります。

 それは「人に迷惑をかけたくないんです」という一言です。

 体が不自由になれば、当然生活に支障が出てきます。子どもに迷惑をかけたくない。配偶者に負担をかけたくない。介護で誰かの手を煩すくらいなら、ぽっくり逝きたい。周囲の人から、この種の言葉をおっしゃる人は、数え切れないほどいるでしょう。みなさん、じつに切実にそう考えているのだと思います。

 なにしろ、理想の自分の最期を尋ねると「ぴんぴんころり」を選びたいという人も少なくありません。死ぬ直前まで元気に暮らして、ある日ころりと逝く。たしかに見事な死にざまではありますが、データを見れば、そう都合よくはいきません。

写真はイメージ ©AFLO

 厚生労働省の調べによれば、2022年度の日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳です。一方で、健康寿命というものがあります。健康上の問題で日常生活が制限されることなく暮らせる期間のことで、こちらは同年の調べでは、男性が72.57歳、女性が75.45歳です。

 平均寿命と健康寿命のあいだには、男性でおよそ9年、女性でおよそ12年の開きがあります。つまり平均像で言えば、人生の締めくくりには、10年前後の「人の手を借りて生きる期間」が、あらかじめ組み込まれているのです。

 ぴんぴんころりは宝くじのようなものです。当たれば幸運。しかし、当てにして人生の設計を立てるようなものではありません。

 では、話を戻して、「人に迷惑をかけたくない」という願いに、僕はどう答えるか。いつも同じ一言です。

「それは、無理です」

 冷たく突き放しているように聞こえるかもしれませんが、違うのです。

 これは意地悪ではなく、歴然たる事実だからです。