定年を迎え、会社の看板や名刺が消え、人間関係が静かに消えていくという人は少なくない。では、老後の絶望的な孤立を防ぎ、人間関係の頼り先を増やすにはどうすればいいのか。ライフネット生命保険創業者の出口治明氏による『老いと死をファクトで考えてみた』(扶桑社新書)より一部を抜粋して紹介する。
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人間関係の頼り先を会社だけにおくべからず
孤立は、誰にでも起こりえますが、とりわけ孤立が起こりやすいパターンというものがあります。日本で言えば、退職後の男性は孤立しやすい傾向があるようです。
国立社会保障・人口問題研究所の発表する「生活と支え合いに関する調査」(2022年調査)によれば、普段どれくらい人と会話するかを尋ねたところ、「毎日会話する」と答えた人の割合は、50歳を過ぎたあたりから、男女ともに下がりはじめます。しかも、その下がり方は、女性より男性のほうが際立っています。
もっと気がかりなのは、会話が「2週間に1回以下」という人の割合です。これも男性に多く、60歳を境に、はっきりと増えていきます。とりわけ、65歳以上で一人暮らしをしている男性では、この「2週間に1回以下」がおよそ15%。およそ7人に一人にのぼります。半月のあいだ、ほとんど誰とも言葉を交わさない高齢の男性が、それだけの割合でいるということです。
妻や仕事を通じてつながっていた人間関係が、退職と、配偶者との死別によって、一度に細っていく。そうして、気づけば会話の相手がいなくなる。これは、その人の性格の問題というより、多くの男性がたどりやすい、一つのパターンだといえるでしょう。「自分は大丈夫」と思われる人もいるかもしれませんので、ここで厳しい話を、先にしてしまいます。会社の人間関係は、大部分が、借り物です。
毎日顔を合わせ、昼飯を食い、ときに家族より長い時間を過ごした同僚たち。あの濃密なつながりは、しかし、あなた個人が結んだ縁というより、会社という仕組みが貸してくれていた縁です。証拠は、定年の日にわかります。名刺が消えると、あの賑やかな人間関係の何割かは、驚くほど静かに、消えていきます。
これを、人の薄情と嘆く人がいますが、違うのです。仕事の縁は、仕事という共通の用事があって初めて回るようにできている。用事が消えれば縁も細る。それだけのことで、誰も悪くありません。
