――それで火がついた?
碓氷 その日私が帰宅すると、母はすでにご飯の支度をしていて、不気味なほど上機嫌でした。いつもの仏頂面、無表情かつ起伏のない声と様子が違い過ぎて、気になって「どうしたの?」と聞いてしまったんです。すると「あなた、東大目指せるってよ」と。すべてを察しました。
――碓氷さんは地元の旧帝大へ行くつもりだったのに。
碓氷 そうなんです。でも母は「東大を目指せるなら目指すのが当然」と言わんばかりに理想を押し付けてくる。その日から「目指せ東大」の生活が始まりました。
――やはり厳しい毎日でしたか?
碓氷 それまでも24時間管理されていましたし、成績も順調に伸びて東大に手が届くところまではいけましたから、普段は監視がキツイだけで済んでいました。高校入りたてならまだしも、受験生なら勉強するのは仕方ないですし。でも、よりによって受験の直前に母の機嫌を崩してしまったんです。
共通テスト後に「東大に行きたいならお願いしろ!」と土下座を要求
――何があったんですか?
碓氷 東京大学を含めて国立大学を受ける際にはまず共通テスト(旧センター試験)を受ける必要があります。これと各大学の二次試験の点数を合わせて合否が決まります。
東大は極端に二次試験の比率が大きい設定なのですが、それでも共通テストの点数が低いと不利ですし、「足切り」の危険もあります。それなのに、私は「足切り」ギリギリの低い点数を取ってしまったんです。
――普通なら受験する大学の変更を考えたりもする状況ですが……。
碓氷 近くの旧帝大なら何とかなる点数だったのですが、母は私を東大に行かせる気になっていたので妥協はできない雰囲気で、いつものように不機嫌が始まりました。こちらも点数が低いことに落ち込んでいますし母の詰問をハイハイ流していたら、「あんたなんて東大は無理! 行かせない!」といきなり激昂して「東大に行きたいならお願いしろ!」とわめきはじめたんです。
――もともとの希望の旧帝大にするチャンスが?
碓氷 それが不思議なもので、東大を目指すうちに私自身も「東大に行きたい!」と思うようになっていました。同じく共通テストに撃沈した同級生が東大に出願すると聞いて「カッコいい。私もダメでもともと、勝負してみたい」と心に火もついていました。そこへ「東大に行かせない」でした。
