『ヒンド・ラジャブの声』
2026年の圧倒的なベストワンであり、今世紀全体でもトップクラスの作品だった。とにかく、一人でも多くの方々に観ていただきたい。
題材は、2024年にガザで実際に起きた事件。イスラエル軍の無差別的な攻撃に一般市民もさらされる中、ガザを支援する赤新月社(イスラム圏における赤十字社的な存在)の事務所と、ある通話がつながる。それは、家族と乗る車がイスラエル軍の襲撃を受け、助けを求める少女の声。赤新月社としてはすぐにでも救急医療の車両を出したい。だが、これまで多くの救急スタッフの命がイスラエル軍の攻撃で失われており、これ以上の損害を出すことはできない。近くにいる車両も、その途中に無数の銃口が待ち構えている――。安全な通行の保証を得るべく、赤新月社は外交ルートを通じて交渉を始めるのだが、なかなか思うように進まない。そうしているうちに、少女の身には危険が迫り続ける。
上映時間の全ては赤新月社のオフィス内だけで繰り広げられ、少女の姿も、イスラエル軍による襲撃も映らない。これが実に効果的だった。観ている側は彼女の声(被害者であるヒンド・ラジャブさんが助けを求めた際の、本物の通話音声が使われている)と、その背後から聞こえてくる銃声から、被害状況を想像するしかない。得られる情報は、赤新月社のスタッフたちと同じなのだ。
その結果、映し出される彼らと同じ想いを共有することができ、その臨場感は尋常でないものになっている。もどかしさ、いら立ち、悔しさ――、絶望と微かな希望との間を往還する登場人物たちの心情が全く他人事に思えなくなり、その強烈な切迫感に圧し潰されそうになる。約90分の上映時間、一瞬たりとも息をつくことはできない。
ラストには実際に被害に遭った車の写真が映る。それは、上映中に頭に浮かべていた想像を遥かに超える、文字通り「想像を絶する」惨状だった。
『ヒンド・ラジャブの声』
監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア/製作総指揮:ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラー、ジョナサン・グレイザー、アルフォンソ・キュアロン/出演:サジャ・キラニ、モタズ・マルヒース、アメル・フレヘル、クララ・フーリ/2025年/チュニジア・フランス/89分/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム/©MIME FILMS — TANIT FILMS/公開中
