「真菜と莉子の命を無駄にしない」
センターは堅牢な高い壁に囲まれている。その外周を歩きながら会話を続けた。
「しつこい遺族だと思うよ。だけど、加害者がどんな場所で服役しているか見てみたい遺族もいると思う。こんな遠い場所の刑務所に入らずに済む未来はなかったのかな、って思っちゃう。裁判中から言ってるけど、飯塚氏とはいつか対話したいんですよ。然るべき手順を踏んでまた来たいと思っています」
後の取材で判明したことだが、この時点で飯塚は体調が悪化していたため、東京都昭島市の東日本成人矯正医療センターに移送されていた。
松永は刑務所を自分の目で確認し、再発防止への思いをより強めた。一二月三日には奈良市を訪れ、県などが主催する犯罪被害者支援のイベントで初めて講演した。これまで松永には全国から講演依頼が寄せられていたが、刑事裁判を理由に断っていた。松永は奈良で約二〇〇人の参加者に対し、自身の体験談だけではなく、一歩引いた視点から被害者支援の課題などについても説明した。終了後、控室で話を聴いた。
「みなさんの反応を見ながらお話しするのは、生きた空気感をすごく感じました。真菜と莉子の命を無駄にしないっていう、根底の思いを少しずつ行動に移せている。すごく達成感があります。途中からカンペをずっと見ちゃってましたけど」
松永は苦笑した。休憩していたところ、イベントの後半で行われたコンサートの歌声が控室まで聞こえてきた。
奈良を中心に活動するシンガーソングライター、氷置晋の「石蕗」には、愛する人を失った喪失感が込められていた。すると、歌詞から二人のことを思い出した松永は、涙が止まらなくなった。遺族は二四時間事故と向き合っている。その言葉通りの現実を目の当たりにした。
