『白鷺立つ』で第32回松本清張賞を受賞しデビュー、第174回直木賞候補にも選ばれた住田祐さん。2026年9月、待望の新刊『誰が首』がいよいよ刊行されました。
織田信長の命令で六条河原に晒していた浅井・朝倉の首級が盗まれた……前代未聞の失態を隠し通そうとする明智光秀と腹心・左馬助の姿を描いた、緊迫の戦国エンタメ。着想の経緯から執筆の苦労、そして自身が描く光秀像を語ってもらいました。
出発点は「盗まれた首を別の首にすげ替える」というアイデア
――本作は織田信長、豊臣(羽柴)秀吉、明智光秀が登場する、いわば戦国時代小説の“王道中の王道”の舞台です。その題材を選ばれた理由を教えてください。
住田 いつだったか、NHK大河ドラマ『功名が辻』で、信長の前に久政、長政、義景の髑髏が薄濃となって供されるシーンを観たとき、画面越しに伝わって来る薄濃髑髏の不気味さに驚くと同時に、「でもこれ……誰の髑髏か分からんやん」と思ったことがあって。もしその薄濃髑髏がまったく別人のものだったとしても、この時代誰もそれを証明することは出来ないよなあ、と。そのときには「これに材を取って小説を書くぞ」とは思いませんでしたが、その記憶が心のどこかに残っていたことはこの作品の執筆のきっかけの一つになったと思います。
主君が討ち取った敵の晒し首を監督する責任を負う人物が、部下から「晒し首が奪われました」と報告を受け、冷や汗をかくシーンを思いつき、じゃあ、誰がこの危機に陥ると一番面白いだろうか、誰に対して隠すことになれば一番緊迫するだろうかと考えたら、もう光秀と信長しか出てきませんでした。なので最初から光秀と信長を書こうと思って構想したわけではなかったんです。
――光秀の腹心である若き左馬助を語り手に選んだ理由は?
住田 困り果てる光秀が出てくることが決まったとき、その様子を描写するには、光秀視点だけでは不十分だろうと。そこでもう一人、光秀の話し相手を登場させてその人物と相談しながらあれやこれや対処していく形にしたほうがいいと考えたんです。
左馬助は、加藤廣さんの小説『明智左馬助の恋』の主人公として、自分にとって親しみのある人物でしたし、一方で信頼に足る史料がほとんど残っていない人物です。だからある程度自由に書けるな、という考えもありました。とはいえ大好きな加藤さんの設定に乗っかった部分もあります。
史実と虚構のはざま…「首」でつながる物語
――信長に対して反旗を翻した浅井長政・久政と朝倉義景の首級が、敗戦後に六条河原に晒されていたという最初の場面設定は史実ですか。
