「彼女からの電話で自宅に駆けつけると、2階には血だらけの男が倒れていた。あの事件の捜査が、政治家の権力に影響を受けていいはずがない。あの夜、何があったのか。遺族が真相解明を求める裁判が始まった今、俺が知るすべてを話します」

「週刊文春」が初めて「木原事件」を報じてから3年。記者の取材にこう口を開いたのは、事件の重要参考人・Y氏である。(初出:「週刊文春 電子版」2026年8月5日配信)

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 蝉時雨が降り注ぐ7月29日午後、その男性は、緑豊かな区立公園に隣接する住宅街を訪れた。

「あの時と変わってないな」と呟き、今は家主が替わった2階建ての古びた一軒家を見上げる。この地を最後に訪れてから20年の歳月が流れていた。

「冥福を祈りたい」

 そう言うと、住宅に向かって20秒間手を合わせ、深く一礼するのだった。

亡くなった安田種雄さんの遺影

「俺が死んだら迷宮入りですから」

「種雄の事件は墓場まで持っていこうと決めていました。そのため、今まで文春やテレビ局の記者が訪ねてきても、お断りしてきたのです。

 今回、取材を受けることを決断した理由の1つは、事件から20年の節目を迎えたことです。俺も歳を取りました。いつか人間は死ぬ。事件をこのまま闇に葬っていいのか。そんな思いが募ってきたのです。ご遺族はいまだに苦しみ、納骨すらできていないと聞きました。真相を知る当事者は俺しかいない。俺が死んだら迷宮入りですから」

 深く息を吸い込むと、一気に話し始める。

「法治国家において、事件の捜査が1人の政治家の権力に影響を受けることがあってはいけないでしょう。俺ができるのは、自分が見聞きしたすべてを語ること。あの夜に体験した出来事を正直にお話ししたい」

 そう語ると、自らの右肩に入ったタトゥーに目を落とす。そこには、かつての盟友に対する哀惜の念が刻まれていた。

〈Rest in peace For Taneo(種雄よ、安らかに眠れ)〉