「2500万円」にものぼる負債を抱えて

 中井家一同は東中井派と西中井派に分かれて多年確執を続けており、國太郎の東中井派は光蔵、熊太郎、為次郎らを恨んでいる。根底はなかなか深く、西中井派の3人が物質的に成功し、東中井派の旗頭である國太郎が零落している点から、そこに何か暗示するものがあるようだ。

 國太郎は相場に失敗し、醤油醸造も思わしくなく、負債が6000円(現在の約990万円)と5000円(同約820万円)の二口で計1万1000円(同約1800万円)ある。利子を足すと約1万5000円(同約2500万円)になり、整理できない状態だった。郵便局長後任問題が動機の1つであるように言う者もあるが、決してそんなことはなく、あれは國太郎の長男の妻が芸者で、八橋のような町では暮らせぬと反対したので、長男の方から断ったのが真相だ。

 そうした背景に犯行に結び付く経過が加わる。『鳥取県警察史第1巻』を見よう。

 國太郎は借金の返済に窮して、妻(やえ)の実家の異母兄の援助を受けようとしたが、異母兄夫婦が継母(やえの実母)に対する仕打ちが悪いことから不仲になってしまった。やがて異母兄が病死。親族の1人が養子になって家督を継いだ。彼と國太郎は懇意だったので、國太郎は借金整理の援助を求め養子も承諾していた。

 しかし、養子は病弱で余命いくばくもないことを悟り、妹の中井のぶの息子を養子にして家督を譲るつもりでいたが、その途中で病死してしまった。中井本家の実権は中井ますが握っていて、ますは予定通り、のぶの息子を養子に迎えたが、幼少のため、家督は養子の父でのぶの夫である光蔵に継がせることにした。光蔵と國太郎は日頃から不仲だったので、借金整理のもくろみもダメになり、返済の目途は全く立たなくなってしまった。このため、ますと光蔵に対する國太郎の憎しみは深くなるばかりだった。

 このような状況の中、國太郎は本家に当たる中井ますと光蔵から借金の返済を求められ、熊太郎、とら、為次郎らからは郵便局で不正があったように言われた。多額の借金の支払いにも窮して、長年務めた郵便局長も辞職せざるを得なくなった。せめて後任には自分の息子をと考えたが、結局それもうまくいかず、それも光蔵や錦織らの画策によるものと邪推した國太郎は、借金返済が行き詰まって自暴自棄となり、自分に(あだ)する中井ます、光蔵、熊太郎、為次郎、錦織を皆殺しにすることをひそかに計画していた。

 こうして大量殺人計画は動き始めた。(つづく)

次の記事に続く 「1発! 2発!」隣家へ侵入し無言で乱射…拳銃3丁で「親族ら9人殺傷」元エリート男性(66)が凶行に及んだ“惨劇の一夜”