知れば「人生の体験の厚みが絶対に違う」
――水津さん、道蔦さん、それぞれクイズ歴は相当に長いわけですが、「クイズが人生の役に立った」と思うことはこれまでにありましたか?
水津 ないです。あれは暇つぶしですから。あえて言えば小遣い稼ぎ程度。クイズに深い意味なんてあるわけないです。遊びにすぎません。
道蔦 水津さんはキッパリとおっしゃるんですが、私は今でも『Qさま!』や『クイズ! 脳ベルSHOW』などのクイズ作家を仕事にしていますから、遊びとまでは言い切れないんですよ(笑)。その上で、あえてクイズが人生のどんな役に立つか、僕なりの考えを言うと「生きていく上で、いろんなことを知りながら暮らしていたほうが楽しいじゃないか」ってことなんです。何も知らないで旅に出て「何だこのでかい建物は」で帰ってくるのと、その建物の歴史や背景を知っているのでは、人生の体験の厚みが絶対に違いますよね。それは信じたいなと。
水津 道蔦さんの言うことはよく分かります。あとね、クイズのいいところは年齢問わず一緒に遊べるんですよ。だって私と道蔦さんは12歳違うのに仲間だし、高校生から村田栄子さんみたいな80代の方までみんな、それぞれの楽しみ方をしている。まあしかし、みんな歳とったね。能勢、あいついくつになったんだろう。
道蔦 『ウルトラクイズ』の能勢一幸さん。たぶん50くらいじゃないですか。
年下に負けるのは悔しくない
――水津さんって、「史上最強」での振る舞いもそうですが、非常に淡々としているというか、答えられない問題に対しても「はい、わかりません」と実にあっさりしている。人間、なかなかその境地にたどり着けないものだと思うんですが、水津さんご自身はそういう自分のことをどう思っているんですか?
水津 さっきも言ったように、クイズなんて遊びなんですから、いちいち悔しがってもしょうがないってことです。逆に勝ったら飛び上がって喜ぶようなこともしないし。負けても楽でした、私の場合。だって相手はあの西村顕治なんですから。これから伸びるだろうっていう年下に負けるのは悔しくない。「これからどんどん強くなって行け」って思うだけですもの。
道蔦 まさに第2回決勝。水津さんが、彗星の如く挑戦者として現れた西村君に敗れることになる問題は「『世界を揺るがした十日間』で知られるアメリカのジャーナリストは誰でしょう」。西村君は「取った」って表情で「ジョン・リード」って答えるんですけど、水津さんは落ち着いた表情で「いやあー、忘れました」って。あれが水津康夫イズムなんですよね。負けてなお清々しいというか。
水津 やれクイズ王だの騒がれもしましたけど、所詮クイズはクイズ。遊びなんですよ。だから「人生にとってクイズとは?」なんて、そんなもの、「はい、わかりません」。
写真=鈴木七絵/文藝春秋
すいつ・やすお/1949年生まれ。出版社勤務のかたわら、TBS『史上最強のクイズ王決定戦』の初代チャンピオンとなり、のちに日本クイズ史では語り草となる「水津・西村時代」を牽引した。
みちつた・たけし/1962年生まれ、横浜市出身。クイズ作家。『クイズ$ミリオネア』、『クイズ! ヘキサゴン』などを手がけ、現在は『オールスター感謝祭』、『Qさま!』、『クイズ! 脳ベルSHOW』を担当中。ネット環境の成長とともにクイズコミニュティの拡大にも関わる。