上坂樹里もギリギリまで知らなかった「直美の本当の母親」

『風、薫る』において、やはり強く心に残るのは“別れ”の場面だ。千佳子(仲間由紀恵)やセツ(村上穂乃佳)のように快癒し、看護の手を離れていく人もいれば、りんに大きな挫折をもたらした山本辰治(本田大輔)や、ゆき(中井友望)が最期を看取った小野田(宮地雅子)のように、帰らぬ人となった患者もいる。

 なかでも印象的だったのは、直美と実母・文(内田慈)との別れ(第17週「脈動」)だ。直美の母親探しは、『風、薫る』における大きな縦軸のひとつ。りんがかつて働いていた瑞穂屋の店員として登場した文は、飄々としてどこかつかみどころがなく、当初は直美とまったく結びつかなかった。

『風、薫る』公式Instagramより

 文を演じる内田慈は、数々の作品で確かな存在感を残してきた実力派。同じくNHKで放送された『お別れホスピタル』では、終末期病棟の看護主任を演じている。患者の最期を看取る日々のなかで、自らもステージ3の咽頭がんを患い、否応なく自身の命と向き合うことになる姿が胸に迫った。

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 直美が文を自分の母親かもしれないと悟ったのは、皮肉にも文が胃がんを患い、看護の助けを必要としてからのこと。オファーを受けた時点から直美との関係を知らされていた内田に対し、上坂が2人の関係を知ったのは第17週の台本を受け取ってからだったらしく、演者の間に生まれた情報の非対称性が、そのまま文と直美の関係にも呼応していた。役作りのため9キロ減量した内田の姿にも凄まじい説得力があり、最後まで文が母親と名乗ることはなかったものの、ふたりの間にはたしかに親子の時間が流れていたのである。

“イップス”に陥ったりんと直美の大喧嘩

 個人的なハイライトを挙げるならば、文との別れが描かれる一週前、第16週「新風吹くころ」で繰り広げられたりんと直美の大喧嘩。山本辰治の死をきっかけに、現代でいうところの“イップス”に陥ったりんは、外科看護婦取締を務めていた直美から「看護婦、やめな」と言われてしまう。

 その裏で直美は捨松に掛け合い、りんの新たな働き口を探していたものの、紹介されたのは、遠く離れた新潟にある女学校の舎監。まだ幼い環(英茉)と離れたくはないが、家族を養うためには働かなければならない。八方塞がりになったりんの煮え切らない態度に直美の苛立ちも募り、ついには互いの不満が爆発。あれよあれよという間に、『風、薫る』史上最大の喧嘩へと発展する。先日『あさイチ』(NHK総合)のプレミアムトークに出演した見上も、印象に残っていると語っていた場面だ。