クマに連れ去られた男性従業員は変わり果てた姿で……。『羆を撃つ』(文藝春秋)より、岩手県北上市の温泉施設で起きた事故を検証した「名物レフェリーはクマに連れ去られた」を紹介する。(全2回の2回目)
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3発の銃声
10月17日午前8時。
警察、消防、猟友会など100人規模の捜索隊による捜索が始まった。
猟友会からは人のハンターが参加し、2班に分かれた。北上市猟友会の会長を務めるハンター、鶴山博は後方支援に回った。
最初にまず警察がドローンを飛ばしたところ、露天風呂の崖下に熱反応があった。
クマかと緊張が走ったが、慎重に近づいてみると、そこには温泉の排水菅が通っていて、湯気が立っていた。その湯気の熱が反応したのである。
崖下のヤブに降りていく前には、花火業者で購入した轟音玉を鳴らして、何か逃げていくものがないかを確認した。ハンターが先頭に立ち、その後ろに警察や消防が続く。
だが温泉の下、川の手前のヤブの捜索では、クマも被害者も見つからなかった。
捜索隊のハンターの一人がふと見上げると、トンビが2羽、くるくると旋回しているのが見えた。上空には報道のヘリも飛び、騒然としているがその場を離れる様子はない。
あの下に何かあるのか――。
もしかすると、クマは被害者を咥えたまま川を渡り、対岸の崖を登ったのかもしれない。
先行する班が川を渡り終えて、対岸の捜索を始めるのと、ほぼ同時だった。
突然3発の銃声が響いた。
先行する班のハンターによる発砲である。
ハンターの間では事前にこんな合図を決めていた。
「人が発見されたら手を挙げろ」「クマを獲ったら両腕でマルを作れ」
ほどなく先行する班の面々が手を挙げ、両手でマルを作った。
時計は午前9時10分を指していた。
「正直、やられるかと思った」
クマを撃ったのは20代のハンターだった。
以下は鶴山がこのハンターから聞き取った内容である。
〈対岸に渡って雑木林に入ったところ、目の前のヤブが動いて、クマがガバッと立ち上がった。
距離は10メートルないくらいでした。急いで銃を構えると、クマは斜面を5メートルほど駆け上がった。するとクマは立ち止まって、こちらを見たので、一瞬目があった。『あれ、来(く)んのかな』と思って、頭を狙って夢中で撃った。正直、やられるかと思った〉
ほかに2人のハンターも発砲したため、銃声は3発聞こえたのである。
