『アンナチュラル』当たり役の裏にあった苦悩
そうした日常生活での観察などを踏まえての役作りは、井浦の楽しみであるのだろう。連続ドラマ『陽はまた昇る』(テレビ朝日系、2011年)で逃亡者の役を演じたときには、爪を伸ばして泥を入れていた。それを共演者の池松壮亮が気づいて「逃亡者だからそうしてるんですか」と訊いてきたときには、「ああ、この作業は成就したな」と救われた気がしたという(『CREA』2019年11月号)。
テレビドラマは映画とはやや勝手が違い、出始めた頃は苦手意識もあったが、しだいに、どの現場もいいものをつくろうという熱量は同じだと気づく。『アンナチュラル』(TBS系、2018年)で演じた法医解剖医の中堂系は当たり役となった。井浦もこのとき初めて役を育てていく面白さを経験したと語っている(『週刊朝日』2018年7月13日号)。
「テレビドラマはもう無理だな」
ただ、一方で、中堂は地に足のついた生々しい人にしたいと思っていたのに、うまく表現できず、撮影終了後には「俺、テレビドラマはもう無理だな……」と思い詰めるほど落ち込んだという。
《でも、放送が始まったら中堂が面白がられていて…なんか本当に芝居ってわからないなって。ただ、少しは救われるけれど、やっぱりどこか自分では苦しい部分もあったりします。最悪な芝居だと思っていたのが、評価を得て、僕が考えていたことなんてたかが知れているんだなって思い知らされた感じで》(『anan』2018年6月27日号)
このときの複雑な気持ちを井浦はそう吐露している。そんな本人の思いをよそに、このドラマで井浦は広く世間に認知されるようになり、出演映画の舞台挨拶では客席から彼の名前を呼ぶ若い女性も現れるほどだった。

