俳優として譲れない「自由な表現」

『トロフィー』についても、公開時のインタビュー(「the fashion post」2026年7月15日配信)で、作品の社会に対する責任を出演者としてどこまで担うのかと訊かれ、《責任は確かにあります。でも、俳優がそこを背負いすぎると、きっと芝居ではなくなっていくと思うんです》として、最終的に作品のすべての責任を背負うのは監督だと語っている。

《映画に求められる社会性を背負う気持ちはあるんです。でも、それよりも大切なのは、俳優としてどこまで自由に表現し続けられるか。それは究極の自己満足でもあるけれど、それが誰かに訴えかける唯一の手段だったりもする。その自由度を奪われるのは、本末転倒じゃないでしょうか》(同上)

 別のところで《俳優の仕事は、自分自身を器にして、その中に監督や共演者を入れて、自分じゃない何者かを作っていくこと》と語っているように(『AERA』前掲号)、彼の考えでは、俳優は器であるがゆえに自由なのであり、それは絶対に譲れないということなのだろう。逆にいえば、俳優が自由に表現するからこそ、観ている者は感動したり、作品の背景にある問題を考えさせられたりするのではないか。井浦の演技が説得力を持つのも、そこに理由がありそうだ。

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 ちなみに『トロフィー』の監督・孫明雅(ソンミョンア)は、これまでに是枝裕和や西川美和の監督助手を務めており、本作が長編では初の監督作品となる。デビュー作が是枝監督の『ワンダフルライフ』(1999年)で、このとき演出助手を務めた西川とともに初めて映画の世界に飛び込んだ井浦からすれば、孫監督は言わば“同門の後輩”ということになる。また、本作の撮影監督は井浦がデビュー作以来、何度も一緒に仕事をしてきた山崎裕(ゆたか)だった。こうして見ると、井浦をこの映画につないだのはデビュー以来の人との縁だともいえる。デビュー当時、俳優を続けるつもりはないと言っていた彼からすれば、50代に入ってそうした作品に出演しようとは夢にも思わなかっただろう。

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朝ドラ『ブラッサム』では編集者・山中勇三を演じる(NHK朝ドラ公式X@asadora_bk_nhkより)

 今週から始まったNHKの連続テレビ小説『ブラッサム』では、ヒロインを作家として世に送り出す編集者・山中勇三(モデルは中央公論社の社長を務めた嶋中雄作)を演じる。さまざまな文化に造詣の深い彼にぴったりの役どころだが、どこかで意表を突く演技も見せてほしい、そんな期待も抱かせる。

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