2012年4月30日、初の公式訪米に臨んだ野田佳彦首相。オバマ大統領との首脳会談、そしてヒラリー・クリントン国務長官主催の公式夕食会――。表向きは優雅なレセプションだったが、数百メートル先のダイニングルームでは、23台の円卓と250人分の席札をめぐって、関係者が“生きた心地のしない”事態に追い込まれていた。
米国務省の儀典官として日米の要人接遇を担った大久保泉氏が明かす、華やかな外交儀礼の舞台裏とは。角川新書の新刊『知られざるアメリカ外交儀礼』より一部抜粋してお届けする。
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修羅場だらけの日米公式夕食会
日本のゴールデンウイークは、日本政府関係者の訪米が重なる時期で、国務省主催の日本関係行事も集中する。
前年9月の首相就任後、初の公式訪問で、野田佳彦首相が訪米した。同日午前、首相はアーリントン国立墓地で献花を行い、その後ホワイトハウスへ向かった。オバマ大統領との二か国会談、ワーキングランチ、共同記者会見。一連の流れは、公式訪問の定型である。
共同記者会見は、両首脳の冒頭発言の後、質疑応答へ入る。その直前、オバマ大統領は野田首相が柔道の黒帯保持者であることに触れ、「もし記者団が度を越したら、ここには私を守ってくれる人がいるからね」と会場を笑わせた。公式トランスクリプトにも、笑いの注記が複数回入っている。
この冗談は、場の緊張を和らげるだけではなかった。野田首相の人柄と、日本を代表する武道である柔道に触れながら、相手への敬意を示す。同時に、質問が過熱しないよう、記者団へ軽く線を引く。持ち上げることと牽制すること。その両方を、一言で成立させていた。
その夜、国務長官主催の公式夕食会が予定された。私は式典部のリードオフィサーとして、行事全体のロジを統括することになった。初めて母国の要人を迎える行事を担当することは、純粋に嬉しかったが、準備は一筋縄ではいかなかった。最初の課題は、会場選びである。
公式訪問に伴う夕食会など国務長官主催の食事行事は、国務省8階の外交レセプションルーム(Diplomatic Reception Rooms)で行うのが通例だ。ところが当日は同フロアが使用できず、急遽会場をワシントン市内のナショナルジオグラフィック博物館へ移すことになった。国務省で開催できない以上、代替会場にも「首脳級の公式行事にふさわしい理由」が要る。
博物館ではサムライ関連の特別展「Samurai: The Warrior Transformed」が開催されていた。ワシントンの桜祭りの時期に合わせた企画である。2012年は日本からの桜寄贈100周年でもあり、ワシントンでは日本文化への関心が例年に増して高まっていた。この流れを生かし、レセプションはサムライ展の展示室で、夕食会は館内の別棟スペースで行うことにした。

