2019年5月、令和初の国賓として訪日したトランプ米大統領。安倍首相の提案で実現した大相撲観戦と米国大統領杯の授与の裏には、失敗の許されない緻密な準備があった。特注の黒い革スリッパ、土俵の仮設階段、表彰状に小さく仕込んだ「アサノヤマ」の発音記号――。
大統領の威厳を保ち、無事に表彰式を成功させるために奮闘した裏方たちの知られざる舞台裏の一部を、米国国務省で働く儀典官・大久保泉氏の著書『知られざるアメリカ外交儀礼』(角川新書)より抜粋して紹介する。
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トランプ大統領 令和最初の国賓訪日
令和元年(2019年)5月、トランプ大統領夫妻は、天皇陛下即位後、初めて迎える外国の国賓として、2017年に続き二度目の訪日をした。皇居での宮中晩餐会を含む今回の訪問日程の中でも、独特の準備が必要だったのが、大相撲五月場所千秋楽の観戦だった。私たちが受けた説明では、この観戦は、安倍晋三総理の意向で、トランプ大統領夫妻に日本の伝統文化を実際に見てもらうために組み込まれたものだった。
千秋楽の全ての取組終了後に行われる優勝力士表彰、「賜盃拝戴式」では、安倍首相による内閣総理大臣杯の授与に続き、米国大統領杯の授与も組み込まれた。観客が溢れる正方形の両国国技館での大統領の相撲観戦には、警備、安全、動線の綿密な調整が必要だった。その調整が先遣の仕事になった。
先遣として初めて国技館の下見に行った時、まずは到着後に国技館へ入る大まかな動線、その後どの位置から観戦するかという候補の説明を受けた。安倍首相には、大統領にできる限り日本の大相撲の醍醐味を味わってもらいたいという思いがある、と外務省から説明を受け、いわゆる「砂かぶり」の席からの観戦も候補の一つとして提案があった。他には、枡席なども候補にあがり、一旦持ち帰って検討することになった。
最終的には、枡席側を改装した貴賓席を置く形になった。本来、畳の枡席では床に座るのが日本では当たり前だが、アメリカ人には床に座る習慣はない。そこで妥協案として持ち上がったのは、大統領夫妻と首相夫妻には特設の椅子を用意し、枡席の場所に設置することだった。日本の伝統とは少し異なるが、相手側の文化やしきたりを互いに尊重してたどり着いた観戦方式だった。

