2016年、日本の獣害史に残る惨劇が起きた。『羆を撃つ』(文藝春秋)より、秋田県鹿角市で4人が死亡した「秋田・十和利山クマ襲撃事件」を紹介する。(全4回の2回目)
◆ ◆ ◆
タケノコ採りに出かけたままクマに…
【1件目の事故(被害者は死亡)】
前代未聞の連続食害事件の発端は、2016年5月21日、秋田県鹿角市十和田大湯字熊取平(くまとりたい)で同市に住む男性、Aさん(79・当時、以下同)の遺体が発見されたことにある。
Aさんは前日、タケノコ採りに出かけたが、夕方になっても戻らず、家族が警察に通報。翌朝から警察が周辺を捜索したところAさんの車を、続けて車から離れた地点で遺体を発見した。現場は旧牧草地(現在は利用されていない牧草地)に接する笹ヤブである。
Aさんの遺体の顔や左半身には多くの爪痕や噛み跡があったことから、クマに襲われたものと見られた。
なお、ここでいう「タケノコ」とは、スーパーなどで売られている一般的なタケノコではなく、それよりも細いチシマザサの若芽を指す。東北などでは「ネマガリ(根曲がり)ダケ」とも呼ばれる。春の珍味として高値で取引されるため、これを目当てに山に入る人も多いのだが、ネマガリダケはクマの大好物でもある。従ってこの時期は、タケノコ採りで山に入った人とクマとが遭遇し、人身事故に繋がるケースが少なくない。
Aさんの事故も当初は、そうした不幸な遭遇事故として扱われていた節がある。
遺体が食害されていたという重大な事実が、警察や自治体、猟友会など関係機関の間で十分に共有された形跡はなく、鹿角市が市民向けメールでクマ出没の注意喚起を促すにとどまった。
【2件目の事故(被害者は死亡)】
そして翌22日、第二の事故が起きる。
この日、第一の事故現場と同じ熊取平に秋田市在住のBさん(78)が妻(77)とタケノコ採りに入った。2人はクマよけに笛を吹きながら作業していたが、7時30分ごろ、笹ヤブの中に入っていたBさんの「クマだ、クマ!」という声が響き渡った。Bさんはクマを棒でけん制しながら、妻に「危ないから逃げろ」と叫んだ。妻は逃げ、近くの山林にいた人に助けを求め、警察に通報している。
その後、妻は現場に戻ったがBさんの姿はなく、やがて到着した警察や消防が捜索したところ、13時16分、心肺停止状態となったBさんを発見した(後に死亡を確認)。
