好んで闘いたいわけではないんですが、しっかりガードを固めていると、噛まれにくいような気がします」

事故後1カ月ほどは、目を閉じるとクマに襲われたときのシーンがまざまざと思い起こされた。闘っているときは、「もしかしたらこれで死ぬかもしれない」などとはまったく考えなかった。

頭にあったのは、とにかく今のこの状況をどう切り抜けるかということだけだった。必死になって抵抗したのが功を奏したのかどうかは不明だが、クマの攻撃は短時間で終わり、致命的な重傷を負わなかったのは不幸中の幸いだった。

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クマ鈴があったのに使用していなかった

だが、そもそもこの事故は避けられたのではないかと、三浦は考える。というのも、音によってこちらの存在をクマに知らせるクマ鈴を、携行していながらザックの中に入れたままにしていたからだ。

クマよけスプレーはすぐ構えられるところに装着していたし、石尊山への登りではスマホで音楽を鳴らしながら歩いていた。

しかし、下るときは音楽を流していなかった。クマ鈴を付けていなかったのは、「鈴の音がしていると興が削がれて山に集中できない」と思ったことによる。

「登山をする人なら、ちょっとした道迷いや転倒などは誰しも経験しているはずです。『あれ、道を間違えたかな』『おっと、危うくコケそうになった』といった経験を通して、『気をつけよう』という思いが高まっていくのだと思います。

でも、クマの場合、襲われる経験というのは滅多にないから、本気で気をつけようという気持ちにはなかなかなれません。だから、実はクマに対する警戒意識は高くなかったんじゃないかと思いました。

クマよけスプレーを持っていれば、なんとかなるんじゃないかと考えてました」

軽井沢の山には多くのクマが生息

事故のあとは、クマに対して「こっちはなにもしてないのに、なんで襲ってくるんだ」という、怒りに近い感情もあった。今はもうその感情はない。

冷静になって考えれば、クマの生活圏に入り込んでいるのは自分のほうだし、ましてや明瞭な登山道ではないところを歩いていたわけである。クマ鈴を付けて歩いていれば防げていたかもしれないのに、それもしていなかった。