東京都でありながら、自然の野湯がそこかしこに湧き出る式根島。気楽にはしご湯を楽しめる癒やしの島だが、その南西部の断崖絶壁の下には、海から泳いでしか辿り着けない幻の野湯「御釜湾海中温泉」が眠っている。潮、天候、波の奇跡的な条件を待ち続け、ついにチャーター船で出航。波立ちすさぶ太平洋へ身を躍らせて目指した旅程を紹介する。

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伊豆諸島の中でも随一の温泉島へ

 伊豆諸島は都道府県でいうとれっきとした東京都。都心から南へ約100~350kmの洋上に連なる火山列島だ。独特の地形と豊かな自然に恵まれた人気の観光地でもある。

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 そのなかのひとつ、式根島は外周およそ12km、人口500人弱の小さな島。コバルトブルーの海と入り組んだ海岸線が独特の景観をつくり出している。式根島までは、東京・竹芝桟橋から高速船に乗れば約3時間でたどり着く。

式根島北岸の野伏港

 そんな式根島の大きな特徴が、海岸そのものが温泉地になっていることだ。島には自然のまま残されたいくつもの「野湯」が湧いている。野湯マニアにとってはまさにパラダイスだ。

 式根島の野伏港に到着すると、まず目指すのは「地鉈(じなた)温泉」だ。世界で最も著名な旅行ガイドブック『ロンリープラネット』で「日本の温泉ベスト10」に選ばれている。世界にその名を知られる野湯も、なかなかないのではないだろうか。この地鉈温泉をはじめ、「足付温泉」「山海温泉」「奥ふなりっと温泉」といった個性豊かな野湯群を、海岸沿いを歩きながら順にめぐっていくことにする。

海岸を歩いて海辺の野湯をはしご

 船を降り島を縦断し、南へ歩くこと1時間ほど。断崖を鉈で切り裂いたようなV字谷の谷底に、目指す地鉈温泉が現れた。喜び勇んで谷を下ってゆく。

約200段の階段を下りた先に名湯が待っている
湯は茶褐色で高温

 式根島の野湯群はどれも源泉が高温なのだが、海岸近くにある。熱い源泉に海水が混ざることで、ちょうど入浴できる温度になるのだ。

地鉈温泉の全景

 地鉈温泉には高さの違う場所に段々と複数の湯船がある。潮の満ち引きによって湯加減が変わるため、ちょうど良い温度の湯船へ移動。海と温泉を自由に行き来して、ほてった体を冷ますことも可能だ。潮位と波の変化に合わせてベストな湯船を見つけて入湯。まるで海と繋がっているかのような感覚が味わえるのは、式根島ならでは。世界が認めるのも納得だ。