地鉈温泉から引き返し、今度は東へ向かう道に入る。坂を下った先に現れるのが「足付温泉」。さらに海岸線を進むと「山海温泉」、そして潮が引き切ったときだけ姿を現す「奥ふなりっと温泉」へと続いていく。

 上がっては歩いて入湯、また上がっては歩いて入湯。こんなに気楽にはしご湯ができる野湯地帯もここぐらいだろう。しかもロケーションがそれぞれ実に個性的なのが素晴らしい。

奥ふなりっと温泉
山海温泉。海岸全体が温泉地帯

 奥ふなりっと温泉は、潮位や天候の条件がそろったときだけ現れ、入湯できるのはわずか数十分。当然、潮の干満は事前調査済みだ。小さくとも湯に身を沈めた時の満足感はこの上ない。なかでも最もアクセスしやすい足付温泉へは、日没後にも改めて足を運んで、幻想的な月見風呂を堪能した。

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月明かりに包まれる足付温泉

ロケーションも特異で姿を現すのも激レア

 島の民宿で一夜を過ごし、翌朝。いよいよ今回の式根島野湯旅の“ラスボス”を目指す。これから向かう野湯は、昨日のそれとは全く勝手が違う。数々の難題をクリアしなければ入湯できない、最高難度の野湯だ。目指すべき敵は、島の南西部の海岸にある。

式根島南部(国土地理院「地理院地図」を元に加工)

 断崖絶壁の直下にあるため、陸路はなく「海からしか」近づくことができないのだ。

 しかも、温泉が姿を現すのは大潮の日の干潮ピーク、わずか1~2時間ほど。昼間でなければ船は出せない。夏であり、凪であり、天気がよく、波も穏やかであること。潮、天候、海況、時間。そのすべてが揃わなければ、たどり着くことさえできない。

 式根島港からあらかじめチャーターしてあった漁船に乗り込む。実は筆者は何度も式根島を訪れる計画を立てていたが、条件が合わずに頓挫。今回は念願の出航だ。はやる気持ちが抑えられず、港を出た直後からずっと船首で前のめりになっていた。

意気揚々と漁船の船首に立つ

 目指す御釜湾(みかわわん)まで約20分ほどの船旅を経て、高さ数十mもの断崖が見えてきた。その岩肌の一角が白く変色し、そこから湯気が立ち上っているのがはっきりわかる。ついに目の前に現れたラスボス。正式名称「御釜湾海中温泉」だ。