だがこの先に、最後の難関が待ち受けていた。断崖絶壁の直下・波打ち際付近には、水深的にも地形的にも、船が直接着岸できるような場所は一切なかったのだ。
最後の最後まで行く手を阻まれた末に……
しかし、ここまできて諦めるわけにはいかない。意を決して、沖に停泊させた船から海へダイブ。数十mを泳いで、断崖の足元を目指すことに。海に入ると、海水が明らかに温かい。海底のあちこちから湧き出した温泉の気泡がシュワシュワと立ち上がっている。
泡と一緒に舞い上がるような気持ちで、温かい海水に身をゆだね、のぼせるような心地よさの中をフワフワと泳いでいった。断崖直下まで泳ぎ着くと、岩壁の亀裂から激アツの湯が噴き出し、小さな湯滝となって海に流れ込んでいた。辺りは湯気に包まれ、温泉成分で岩肌は真っ白に染まっている。
湯滝が海へ流れ込むあたりで、海水と混ざるポイントを見つけ、さっそく身を沈めてみる。しかし、波がしょっちゅう押し寄せ、海水と激しく混ざるため、落ち着いて浸かっていられない。さすがラスボス、最後の最後まで手強い。
あたりを見渡すと、湯滝から十数m離れたところに湯だまりが見えた。波打ち際との間に斜めになった巨岩が、まるで防波堤のようにそそり立っている。
かつて誰かが作った湯船だろうか。それとも自然に出来上がった奇跡か。いずれにせよおあつらえ向きだ。近づいて湯加減を確かめてみると、なんとか入れそうだ。ただし底の隙間から熱湯が湧いているのも見える。
おそるおそる身体を沈めてみる。熱い。それでも、このために何年も待ったのだ。潮を待ち、天気を待ち、凪を待ち、船を手配し、海を泳いで、運を味方につけて、今やっと御釜湾海中温泉に浸かっている。
なんとか浸かり続けられたのは数十秒。それが限界だった。だが、十分だった。感無量の一言だ。きっと、この湯の記憶は一生消えないだろう。
【注記】
※野湯の訪問には、重大な事故や命を落とす危険を伴います。訪問の際は、万全の備えと情報収集、安全第一の行動と迷ったら撤退する勇気を心がけてください
(写真:瀬戸圭祐)
INFORMATION
【データ】
■地鉈温泉
住所 東京都新島村式根島1006
アクセス難易度 ★☆☆☆☆
湧出量 多量
湯温 高温
■足付温泉
住所 東京都新島村式根島1006
アクセス難易度 ★☆☆☆☆
湧出量 適量
湯温 高温
■山海温泉
住所 東京都新島村式根島1006
アクセス難易度 ★☆☆☆☆
湧出量 多量
湯温 高温
■奥ふなりっと温泉
住所 東京都新島村式根島1006
アクセス難易度 ★☆☆☆☆
湧出量 多量
湯温 高温
■御釜湾海中温泉
住所 東京都新島村式根島
アクセス難易度 ★★★★☆
湧出量 多量
湯温 高温



