飛び込み営業の法則

 その後も私は相変わらず大須商店街を歩き続けた。そのうち不思議なことが起こった。何度も顔を出すうちに、「△△さんのところへ行ってみたら」と紹介してくれる人が現れたのである。そして、紹介先で「凸凹さんのご紹介でうかがいました」と伝えると、とんとん拍子で話が進み、契約まで至るのだった。

 こうして私は飛び込み営業の法則らしきものを感じ始めた。訪問回数(使った時間)は足し算、担当者の知識や能力は掛け算、そして紹介は累乗なのだ。

 紹介の連鎖が始まると世界が変わる。そのすべての土台にあるのは信用だった。

ADVERTISEMENT

 私はだんだんと飛び込み営業が好きになっていった。

 だが、毎週火曜日の電話営業だけは苦手だった。相手の表情が見えない。声だけで勝負しなければならない。ある日、私は藤堂課長に訴えた。

「課長、お願いがあります。私は電話営業では結果を出せる気がしません。その代わり、飛び込み営業なら誰にも負けないくらい回ります。火曜日も電話ではなく、外回りに専念させてもらえないでしょうか」

 藤堂課長は即答した。

「アホか。自分の得意なことだけやって、一人前の営業マンになれると思うな。大須ばかり回っとったら個人客しか相手にできへん。電話営業も法人営業もできるようになって初めて営業や。苦手やから逃げるんやなくて、苦手やからこそ鍛えろ」

 私は火曜日にくわえて木曜日も電話営業を命じられた。申し出は完全に逆効果になった。この話をすると、同期のひとりが苦笑した。

「おまえはほんまバカ正直やな」