「生きてきてよかった」と涙した運命の出会い

――苦労したことや困ったことはたくさん伺いましたが、ちなみに、一番幸せな時間ってどんなときですか?

棈松 幸せな時間ですか……。それこそ、でも炊き出しをやっているときとか。自分の献身で人が喜んでくれるとめっちゃ嬉しいです。結局お金を稼いでも、物を買うことでは幸福は持続しないじゃないですか。人を喜ばせられたっていう“誇り”の部分ですね。自分の誇りになることが増えるのは、すごく資産な気がします。

――今まで伝えてもらって嬉しかった言葉はありますか?

ADVERTISEMENT

棈松 Uberで韓国人のお客さんに届けたとき、送ったメッセージについて、お礼を言われたことかな。「私の弟もあなたと同じ病気を持ってます」って。症状も似ていて引きこもってると。「だからあなたが一生懸命仕事をしてるのを見て、すごく勇気が出ました。本当にありがとう」みたいに言われて。

 多分、弟さんがふさぎ込んでて、お兄ちゃんとしては希望が見えなかったんでしょうね。そこで「こういう生き方もあるんだ」って、ちょっとした救いになれたのかなって思って。バイクで僕が立ち去るまで、外で見送ってくれて。ミラー越しに、いつまでも頭を下げてるのが見えるんですよ。割烹料理屋のお見送りか、ってくらいに(笑)。

――運命を感じたんでしょうね。

棈松 こっちもです。「ああー」って、運転しながら涙が出てきて。「もうちょっと今日は仕事やめようか、嬉しいし」って思って。そのままコンビニの駐車場で「ああ、生きてきてよかった」と思って、お酒を買って帰りました(笑)。結構お客さんから「自分もチックがあります」とか「身内にいます」とか言ってくださる方もいて。事前に症状について説明するメッセージ自体は続けてもいいなって思ってます。

 あと僕の影響でUberを始めたトゥレットの子がいて。「メッセージ、参考にしていいよ」って言ったら、全く一緒の文面だった(笑)。まあ、それも大目に見ますよ!

 

◆

 トゥレット症について「理解してほしい」のではなく、「知ってほしい」と話す棈松さん。症状をめぐる誤解や偏見に向き合いながら、それでも人と関わり、挑戦を続けている。

「生きてきてよかった」と思える瞬間がある。そんな実感が、今度は誰かの「生きてみよう」につながっていく。そうやって棈松さんの挑戦は、これからも続いていくのだろう。

撮影=細田忠/文藝春秋

最初から記事を読む 「父ちゃんが机をバーン! 頭から味噌汁をかぶって…」意思とは関係なく声が出てしまうトゥレット症を小3で発症した男性(31)が明かす、家族との衝突と“父からの手紙”

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。