「そのスカート、もうちょっと上げてごらん」
以降はご存じの通りだ。数々の映画やドラマに出演し、『花より男子』(TBSテレビ系、2007年放送)では道明寺司(松本潤)の母親・楓役で若者にも知られるようになった。また近年では『しあわせは食べて寝て待て』(NHK、2025年)や今回の『ブラッサム』など、年配女性の役柄で円熟味を増した演技を見せている。
その間、私生活でも度々話題を振りまいてきた。
本人も折にふれて語っている作家・川端康成との出会いは、まだ20代初めのことだ。
川端原作の映画『美しさと哀しみと』で主演を務めることになった加賀まりこは、川端の自宅で本人に引き合わされた。その後、加賀を気に入った川端は投宿先での朝食に度々誘うようになる。
だがその朝食は、とても奇妙なものだった。「おはようございます」と挨拶を交わした後は、ほとんど会話もない。それで川端はどうしているかと言うと、自分は食事をせず、食べている加賀を正座したままただ眺めていたという。
2度目の朝食の際、加賀は膝丈の巻きスカートを履いていた。そのため座ったとき、少し裾がめくれてしまった。すると川端は、「そのスカート、もうちょっと上げてごらん」と静かに言った。
「川端康成に頼めばいいじゃん」
いまのご時世なら、セクハラと糾弾されておかしくない。だが言われた加賀は、そのとき一片のいやらしさも感じなかった。それは“とっても清澄なる官能”であり、同じ感覚は映画『陽炎座』(1981年公開)で松田優作と共演したときにも味わったと加賀は後に回顧している。
その後加賀まりこと川端康成は、年齢差を超えた友人同士のようになった。川端ほどの大作家ともなれば気軽に原稿依頼をするなど誰もが二の足を踏むところだが、加賀は『オンディーヌ』の公演パンフレットへの寄稿も「川端康成に頼めばいいじゃん。アタシ、頼んどくわよ。友達だから」といった調子だった。
世間の常識にとらわれないのは、川端康成との関係だけでなく、加賀まりこの人生すべてに当てはまる。恋愛に関しても、相手との年齢差や立場の違い、既婚か否かということなどよりも、まず優先したのが自分の素直な気持ちだった。