菓子の下に現金が「まるで時代劇ですよね」
一連の借用証書と千鶴子が収支について記録したノートによると、配当の仕組みは2つあった。
1つは、利子を元金に組み入れて、そのまま預け続ける「再投資型」である。当初は年7%前後、その後は5%程度の利回りが示されていた。
もう一つは、利子を毎月現金で受け取る「毎月分配型」だった。こちらは年五%前後で、元本に応じて月ごとに現金が渡されていた。
「分配型」は、利回りはいささか低いものの、現金のやり取りが途切れることがない。それが千鶴子の心をくすぐったようだ。娘の安田が母の心を推察する。
「母は現金をやり取りすることに、どこか遊びのような感覚があったのだと思います。それに投資が好きなんですよ。のちに株もやるようになって、『お金がお金を呼ぶ仕組みはいい』と話していましたから」
配当は毎回受け取るだけでなく、そのまま預け直すことも繰り返されていた。つまり、金は一度預けられて終わりではなく、正下の手元で回り続けていたことになる。
現金の受け渡しの作法は凝っていた。運搬には、正下が日常的に利用していたタクシーが使われた。
菓子折りを持って現れ、それを差し出しながら「奥さん、これ食べて」と言う。続けて「中に入っているからね」とささやく。開けると、菓子の下に現金が詰められていた。
安田が苦笑した。
「まるで時代劇ですよね。悪代官が『お前もワルよのう』と言って、小判を渡すのにそっくり。母にとっては、友人とのそういうやり取りが楽しかったんだと思います」