手応えを直に感じられるのが現場の面白さ
もちろん、楽に稼げる仕事ではない。石坂氏は朝6時過ぎに起き、7時半ごろに現場に着く。8時の朝礼から一日が始まり、退社は午後6~7時の日が多い。
従来は「8時の朝礼には全員参加」が一般的だったが、現在の現場では、朝礼に参加する具体的な目的がなければ、事務所でデスクワークをしたり、出勤時間をずらしたりできる。以前より柔軟に働けるようになっている。
一方で、追い込みたい日は午後10時まで働くこともある。台風など安全に関わる局面では、突発的な対応が必要になる。
ただし、長時間労働が常態化しているわけではない。繁忙期と落ち着いている時の差が大きく、早く終わる日は、以前の現場で世話になった職人と飲みに行くこともある。「メリハリのある働き方の方が性に合っている」(石坂氏)と言う。
精神的な負荷も小さくない。専門工事会社には、打ち合わせを担う番頭、現場を束ねる職長、その下で働く職人という指示系統がある。どこかで伝言ゲームがつまずくと、施工は滞り、品質や安全面にも影響が出る。良くも悪くも結果がすぐに見える。仕事が前に進んだり、つっかかったりする手応えを直に感じられるのが現場の面白さだ。
現場全体を率いる覚悟
数カ月後には、石坂氏の下に若手が付く。これまで部下を持つ経験は少なく、戸惑いもある。それでも、上からの指示をそのまま下に渡すのではなく、自分の言葉に置き換えて伝えることの大切さは、身をもって知っている。職人との関係で学んできたことを、後輩にも伝えたいと考えている。
その先に見据えるのが、40代での所長就任だ。以前は現場の仕事に面白さを感じ、「ずっと主任でいい」と思っていた。
考えが変わったきっかけは、30代半ばで経験した本社勤務だ。多くの現場所長や職人、社内外の関係者と接する本社勤務を通じて、「木造に強い」という専門性を磨き、成長できた。自分を育ててくれた職人や協力会社に恩返しをしたい。そうするには、所長となって自分が現場全体を率い、互いに納得できる健全な現場をつくるしかない。そう腹をくくった。
憧れた職人に近づき、悩み、支えられてきた経験は、今度は現場を率いる覚悟に変わっている。
