このような際、技術開発活動を継続するか否かを判断する際の重要な基準の一つは、「ボトルネックが特定できているか」という点である。問題が特定されており、解決への道筋が見えているのであれば、時間はかかっても前進できる可能性がある。反対に、何が問題なのかという問題の所在すらわからないのであれば、投資を継続する合理性は乏しい。
ASMLはEUV光源の出力不足こそが実用化に向けた最大のボトルネックだということを理解していた。そしてそれを解決するために、米国の光源専業メーカー「サイマー」の買収を計画し、それを実現するために顧客であるインテル、TSMC、サムスンから直接出資を募る前例のない共同投資プログラム「CCIP(Customer Co-Investment Program)」を立ち上げたのである。
だがCCIPの実行には株主総会での承認が必要であった。経営陣はフィデリティやブラックロックといった大手投資会社からの批判的な声が浴びせられる中で、株主総会という修羅場をくぐり抜けなければならなかったのである。これが執拗性という能力の一つの具体的内容である。
ここで重要なのは、何がボトルネックなのかを理解し、その解決方法について説得力のあるシナリオを描けることである。ASMLが投資家や顧客を最終的に説得できたのは、EUV光源というボトルネックを明確に認識し、その解決策としてサイマー買収とCCIPを位置付けていたからであった。
東レやファナックは大きな成功を収めたが…
かつての日本企業にも、執拗性を発揮して大きな成功を収めた例は少なくない。
例えば東レの炭素繊維事業である。東レは1960年代から炭素繊維の研究開発を開始したが、長期間にわたって十分な収益を生み出せなかった。しかし投資を粘り強く継続した結果、航空機用途で需要が拡大し、現在ではボーイング787の機体材料として広く採用されるなど、世界トップクラスの地位を築いている。事業が本格的に開花するまでには数十年を要した。
さらに、ファナックのCNC(コンピュータ数値制御)装置の開発もそのような例の一つだ。CNC装置のいち早い実用化は、日本の工作機械産業を世界の頂点に押し上げる原動力の一つとなった。その開発プロジェクトは1959年頃から富士通社内で始まったが、9年以上もの赤字に耐え続けて、ようやく世界で初めて実用化にこぎつけた。当時の富士通の経営陣は、まだ利益の出ないCNC開発に対して、10年近くもの間投資を続けたのである。
世界初を目指すような革新的な先端技術開発であればあるほど、長期的な視点に立って短期的な収支に左右されずに、技術探索を執拗に継続する能力こそが求められる。