気になるのは、近年、日本企業の執拗性が劣化していないかという点だ。短期収益を求める投資家へ配慮する余り、3年で黒字に転じなければ新事業から撤退する企業が多いと聞く。そのような慣行が存在する企業もあるようだ。だが、たかだか3年程度で撤退していては、世界へ影響を与えるイノベーションは日本からでてこなくなってしまうだろう。
硬直化した組織が陥る「能力の罠」
第二は日本企業における「能力の罠」という観点である。
本書で繰り返し見てきたように、ASMLの強みは個々の技術ではなく、「技術を組み合わせて組織化する能力」にあったのである。重要なのは、自社がすべての技術を持つことではない。そうではなくて、外部の異なる技術をうまく統合して、一つのシステムとして機能させる能力である。
これは、日本企業が得意としてきた「自前主義」と対照的であろう。日本企業は優秀な現場技術者を多数抱え、現場の主体的な問題解決と継続的な改善活動が成長の原動力だった。広く知られているように、日本企業の強みは現場の強さにあった。
しかしEUVのような最先端技術開発になると、一企業だけで必要な技術を抱え込むことは現実的に不可能になる。にもかかわらず、依然として強い現場へ頼り過ぎるならば、このような環境変化の中ではその行動は弱みに転じてしまう。
だとするならば、日本企業は「能力の罠」に陥ったと言わざるを得ない。能力の罠とは、外部環境が変わったにもかかわらず依然として既存能力にこだわり続けてしまい、それが弱みに転化してしまうことを言う。
注意してほしいのは、現場の強さそのものが問題だったわけではないということだ。そうではなくて、環境が大きく変化したにもかかわらず、その能力にのみこだわり続けて、変化することをおろそかにすることが問題になる、ということなのである。
「EUV水準」のイノベーションで求められたのは、世界中の最良の技術を探し出してそれを組み合わせ、体系的なシステムとして組織化する能力である。ここで必要だったのは、現場の強さに依拠した「自前主義」ではなくて、世界中の最良技術を結集して組織化するシステム・アーキテクトだった。これこそがASMLの仕事の仕方だったのである。